イタリアの作曲家プッチーニのオペラ。三幕。1900年ローマ初演。ビクトリアン・サルドゥーが名女優サラ・ベルナールのために書いた同名の戯曲(1887・パリ初演)に基づき、ルイージ・イリッカLuigi Illica(1857―1919)とジュゼッペ・ジャコーザがイタリア語台本を作成した。1800年のローマを舞台に、歌姫トスカに横恋慕する警察長官スカルピアが、彼女の恋人、画家カバラドッシを革命派に加担したかどで捕らえ、彼の助命と引き換えに彼女をわがものにしようとする。思い余ったトスカは助命と出国許可を手に入れたのちスカルピアを刺殺してしまうが、約束とは違ってカバラドッシは銃殺され、トスカも後を追って城壁から身を投げるという悲劇。原作の政治的な色彩は薄れ、オペラでは人間の欲望や嫉妬(しっと)のドラマが前面に押し出されている。拷問、殺人、処刑といった場面を自然主義的に描写する音楽と、トスカの「歌に生き、恋に生き」やカバラドッシの「星も光りぬ」のような叙情的アリアがみごとな対照をなし、彫りの深い表現の楽劇となっている。ワーグナーの影響がもっとも顕著な形で表れた作品といえよう。日本初演は1919年(大正8)に来日のロシア歌劇団、邦人による初演は1935年(昭和10)の藤原歌劇団。
[三宅幸夫]
G.プッチーニ作曲の3幕のオペラ。1900年1月ローマのコスタンツィ劇場で初演。フランスの劇作家V.サルドゥーが名女優サラ・ベルナールのために書きおろした5幕からなる同名の戯曲からG.ジャコーザとイリカLuigi Illica(1857-1919)が台本を共作。
1800年,オーストリア支配下のイタリアでナポレオン軍を迎えて各地で戦闘が行われているさなか,独立運動家たちの活動も加わって政情不安なローマを背景に,歌姫トスカと恋人の画家で自由主義者カバラドッシ,さらにトスカによこしまな思いを寄せる体制派の警視総監スカルピアの恋と葛藤を描いている。登場人物の性格描写の妙とライトモティーフの使用に加え,劇的緊迫感と情熱的旋律の美しさで,世界的に最も愛好されるオペラの一つとなっている。トスカの歌う《歌に生き恋に生き》,カバラドッシの《たえなる調和》《星はきらめき》はとくに著名。日本初演は1919年ロシア歌劇団による。
執筆者:武石 英夫
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…以後,約40編の喜劇を書き,その大半は筋の運びを主とする風俗劇で,《ブノアトン一家》(1865),《離婚しよう》(1880),《心霊術》(1897)などが秀作である。また歴史に取材した正劇(ドラム)の分野でも《祖国よ》(1869)や《憎悪》など力作を発表,とりわけ《トスカ》(1887)や《無遠慮夫人》(1893)は著名である。心理分析が甘いという批判はあるが,観客の笑いと感動を誘うその手法は鮮やかであるというほかはない。…
…彼の作風の変化は,後期ロマン主義からスカピリアトゥーラ派の動きを経てベリズモに至る19世紀後半の文学的状況をそのまま反映している。なお,プッチーニのオペラ《マノン・レスコー》(1893),《ラ・ボエーム》(1896),《トスカ》(1900),《蝶々夫人》(1904)の台本も手がけた。【鷲平 京子】。…
…1884年最初のオペラを発表。93年3作目のオペラ《マノン・レスコー》で成功を収め,《ラ・ボエーム》(1896),《トスカ》(1900),《蝶々夫人》(1904)と傑作を書き続け,《トゥランドット》(未完。F.アルファーノが完成させて1926年初演)まで10曲のオペラを作曲した。…
…明治20年代(1888‐97)に入ると文学的翻訳と演劇的翻案とに二分化し出す。すなわち,福地桜痴作《舞扇恨之刃(まいおうぎうらみのやいば)》(V.サルドゥー原作《トスカ》,1891年歌舞伎上演)や尾崎紅葉作《夏小袖》(モリエール原作《守銭奴》,1897年新派上演)のように日本化されて歌舞伎や新派の脚光を浴びる翻案上演が進む一方で,森鷗外訳のG.E.レッシング戯曲(1892)や高安月郊訳のH.イプセン劇(1893)など,さまざまな西欧近代戯曲の翻訳も始まった。 原作に忠実な文学的翻訳戯曲の上演は明治40年代(1908‐12)に入ってからであり,文芸協会,自由劇場の新劇運動ではイプセン劇などの翻訳劇上演が主体となり,1924年の築地小劇場創立により名実ともに翻訳劇時代を確立するにいたった。…
※「トスカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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