スイスの植物学者。ジュネーブに生まれる。同地とパリで教育を受け、パリではラマルクやキュビエらと親交し植物学を研究した。1807年フランスのモンペリエ植物園長、1808~1816年モンペリエ大学植物学教授を務め、この間、『植物学の階梯(かいてい)的理論』を著した。1816年ジュネーブに帰り、1836年までジュネーブ大学教授。ここでは植物の分類に全力を注ぎ、ジュシューの分類体系を引き継ぎ『植物自然分類序説』を刊行し始めたが、7巻までで没した。この間、多くの新種植物を発見し、後の植物分類学に一つの基礎を与え、また分類学を精密な自然科学へと高めた。
子のアルフォンスAlphonse Louis Pierre Pyrame de Candolle(1806―1893)は父の未完の『植物自然分類序説』全17巻を完成したほか、植物地理学を研究し、各地の栽培植物の起源を調査して、1883年には名著『栽培植物の起源』を著した。ジュネーブ大学植物学教授を務めた。
[鈴木善次]
スイスの植物学者。ジュネーブ生れで,幼いときから植物を研究し,1805年にはラマルクの《フランス植物誌》を校訂して第3版を出版した。08年フランスのモンペリエ大学植物学教授となり,当時もっとも新しい植物学書の《基礎植物学原論》(1813)を出版,ついで《植物器官学》(1827),《植物生理学》(1832)を著し,植物形態学,生理学の指針を示した。16年にジュネーブに帰り,そこに植物園や自然史博物館をつくり,公立図書館,美術館の創立にもたずさわった。最大の植物誌《植物界自然分類体系大全》を刊行し,生存中7巻まで出た。死後,息子のアルフォンスが中心となってとりまとめ,この書は全17巻となった。取り扱った植物は双子葉植物のみであったが,5100属,5万9000種にも及んだ。なお,ド・カンドル家は,息子のアルフォンス,孫のカシミールAnne Casimir Pyrame de Candolle(1836-1918),曾孫のオーギュスタンAugustin Pyrame de Candolle(1868-1920)も植物学者で,スイスにおける植物学の名門として知られる。
執筆者:木村 陽二郎
スイスの植物学者で,オーギュスタンの子。パリで生まれ,ジュネーブで死去。ジュネーブ大学教授を務めたことがある。比較形態学,植物分類学,植物地理学などの研究をすすめ,とくに植物の分布が栄養・温度と関係が深いことを明らかにし,生態的地理学の基礎を築いた。それらの成果を土台とし,さらに植物学のみならず,考古学,言語学の知見も加えて,1855年《合理的植物地理学》を公にした。その書の1章(栽培植物の系統に関する章)を拡大し,83年有名な《栽培植物の起源》を刊行した。本書は今日なお,この種の書物の標準的・古典的名著である。とり上げた栽培植物の数は,新旧両大陸あわせて約250種であったが,その起源が不明のまま疑問とされたものもあり,また中国の栽培植物の起源についての知見は必ずしも十分ではなかった。
執筆者:川田 信一郎
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…その点で栽培植物の起源を明らかにすることは,人類文化史の重要な一面の解析であるといっても過言でない。 栽培植物の起源について総合的に論じた最初の近代的研究は,1883年に刊行された,スイスの偉大な植物学者A.ド・カンドルの著書《栽培植物の起源L’origine des plantes cultivées》である。この著書の中でド・カンドルはおのおのの植物が栽培化される前はどのような状態であったか,とくにその発祥地について今まで信じられていた個々の植物についての意見は,ギリシア・ローマ時代にまでさかのぼって訂正すべきであると考えた。…
…体内に維管束をもつ植物群の総称で,シダ植物,裸子植物および被子植物を含む。ド・カンドルA.P.de Candleが1813年に非管束植物cellularesと対比させて用いたが,そちらの方は流布しなかった。しばしば高等植物と呼ばれることがある。…
…ジュシューA.L.de Jussieuは植物界を子葉を標徴として,双子葉類,単子葉類,無子葉類の3群に分類したが(1789),裸子植物は双子葉類に編入されていた。ド・カンドルA.P.de Candolleも,それらを双子葉類といっしょにしていた(1813)。裸子植物を今日のように,種子(胚珠)が心皮(心房)に包まれていない植物として正しく認識したのは,ブラウンR.Brownである(1827)。…
※「ドカンドル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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