ニジマス(その他表記)rainbow trout
Salmo gairdneri

改訂新版 世界大百科事典 「ニジマス」の意味・わかりやすい解説

ニジマス (虹鱒)
rainbow trout
Salmo gairdneri

サケ目サケ科ニジマス属の1種。体側ににじ色の帯状に輝いた部分が幅広く縦走しているところからこの名がついた。体側には,このほかに緑色の斑紋と,腹部を除いた部分および背びれ,あぶらびれ,尾びれなどに小黒点が散在している。全長40cmになる。アメリカではニジマスの中に海に下るものがあり,北洋漁業の際に漁獲されることがあり,ショマと呼ばれ,1mに達するものがある。これは,スチールヘッドトラウトとともに別亜種とされていたが,現在はニジマスと同一種名で呼ばれている。

 日本に生息するニジマスは,1877年カリフォルニア州のシャスタ山ろくの河川に産卵された1万粒がアメリカの水産委員より寄贈されたのが始まりで,東京の関沢明清宅の井戸水で孵化(ふか)させ,その後,埼玉の白子の養魚場で80年に初めて2万粒の卵を採取することに成功した。孵化後,猪苗代湖,中禅寺湖に放流したが,その後繁殖の確認の記録がないまま経過した。さらに,1887年から1910年までアメリカより輸入を繰り返し,日本での繁殖も可能になり現在に至っている。

 冷水性魚類であるが,比較的高温にも耐えられ,孵化水温18℃,飼育水温25℃でも水量が豊富であれば飼育が可能である。そのため,全国各地の湖,河川に放流され,日本で従来から生息していたヤマメなどの在来マスを凌駕(りようが)して分布を広げ,現在ではマスの養殖というとニジマスを指すほどである。

 満3年で産卵が可能になるが,2年で産卵するものもある。産卵期は生息水域の水温によって異なるが,日本では12~7月である。アメリカでは10月に産卵するものもあるが,日本でも日照時間の調節など人工的な方法で10月に産卵させることも可能になっている。

 産卵前には,体側の赤色縦帯も鮮明になる。サケと異なり,1回の産卵で死ぬことはなく,数回産卵させることも可能である。1腹の卵数は,以前,4年で初めて1000粒ほどであったが,優良な系群を残すことによって,2年魚で平均約5100粒,3年魚で約8800粒を採卵しうるようになった。

 卵径は,約6mm前後で,黄赤色をしている。サケの卵よりやや小さく,黄色みが強い。水温10℃で約35日で孵化する。稚魚は,体側に8~12個のパーマークparr markをもつが,15~18cmになるころには消失する。その後,池中養殖,あるいは湖や河川に放流したりする。

 現在は,各地で増・養殖が行われ,解禁日直前に放流するなど,釣りの対象魚としても有名である。しかし,近年,放流後しばらくは盛んに繁殖し増えるが,しだいに繁殖力が衰え消滅してしまうという報告が聞かれる。放流魚の家畜化の進行,日本の生態系との不調和が原因らしい。餌生物は,自然の水域に生息するものは,昆虫類,小魚などである。フライムニエルなどにして美味である。

 ニジマス属にはこのほかにブラウントラウトS.trutta,タイセイヨウサケS.salarがいる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニジマス」の意味・わかりやすい解説

ニジマス
にじます / 虹鱒
rainbow trout
[学] Salmo gairdneri

硬骨魚綱サケ目サケ科に属する魚。体表のとくに背面、背びれ、尾びれに細小の黒斑(こくはん)が散在し、背部は緑褐色、腹部は銀白色で、側線部の帯状の淡紅色の輝きは虹(にじ)のイメージを与え、英名はレインボウトラウト。幼魚の外観とくに小判形のパーマークはヤマメとよく似る。アラスカからメキシコに至る北アメリカ西岸の河川に広く分布し、北方域のものは降海・遡河(そか)型のスチールヘッドトラウトsteelhead troutが主となる。地域による系統群、亜種がかなり多く、分類上の問題の余地が多く、本来、単一の魚種とみなしがたいが、頻繁な移殖の結果、系統群の特性は乱れているため、現在学名は標記の一つで示されることが多い。低温の渓流や湖沼に生息するが、ほかのサケ・マス類よりはやや高い温度に耐える。通常、体長55センチメートルに達するが、さらに大きくなるものがある。一般に3年目に成熟し、10月から翌年3月が産卵期で、数年連続して成熟する。水生昆虫や小形魚を食い、貪食(どんしょく)で、サケ・マス類の稚魚の害魚とされる。約100年前から世界各地に移殖されてよく定着し、河川・湖沼放流、池中養殖の適種となっている。日本には1877年(明治10)以来数回にわたり、おもにカリフォルニア州の渓流のものおよびスチールヘッド系のものが移入された。現在、北海道西別(にしべつ)川、摩周湖などで自然繁殖している。河川内の野生のものは習性が荒いため釣りの対象として喜ばれる。

[久保達郎]

料理

味が淡泊なので各種の料理に向く。洗い、刺身など生食のほか、小形のものは姿のまま塩焼き、魚田(ぎょでん)、から揚げ甘露煮(かんろに)、ムニエルに、また、切り身にしたものはてんぷら、酒蒸しなどにも利用できる。外国でのニジマス料理はフライやバター焼きが多いが、フランスやスイスではニジマスのオー・ブルーが代表的料理として知られている。これは、ニジマスを青く輝くようにゆで上げた料理で、生きたニジマスだけがもつ、体表のぬめりのある薄い膜を酢を使って青く変色させたものである。

河野友美

釣り

養殖されたニジマスは、湖や、川の中流部から上流部に放流されて釣りの対象魚になる。山間の渓流の一部を仕切り、ここに魚を放流して釣らせるのが常設釣り場である。

 餌(えさ)釣り、ルアー釣り、フライフィッシングで楽しめる。餌釣りは先調子の渓流竿(ざお)で、玉ウキ1個のウキ釣りか、道糸に目印をつけたミャク釣り。餌はイクラが主体で、ブドウムシやヤナギムシ。また、釣り場により養魚用飼料を主にした練り餌でも釣れる。ルアーは、スピナー、スプーンが主体で、とくに流れのある渓流では小型の軽いスピナーがよい。フライフィッシングは3~6番のロッドとラインを使い、ドライやウェットフライでねらうとよい。

[松田年雄]


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百科事典マイペディア 「ニジマス」の意味・わかりやすい解説

ニジマス

サケ科の魚。背側面には黒斑が多数あり,体側の紫赤色の縦帯は雄に顕著。全長40cm,アメリカではニジマスの中に海に下るものがあり,全長1mに達する。降海型は,北方漁業で〈ショマ〉と呼ばれ,漁獲される。北米西部の原産。1877年以来数回移殖され,現在では各地に普及している。日本在来のサケ科の魚と違って数年間連続して採卵でき,マスの養殖といえば大体本種をさす。塩焼,フライなどにして食用。冷凍にして米国にも輸出される。ブラウントラウトやタイセイヨウサケもニジマス属である。
→関連項目サケ(鮭)マス(鱒)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニジマス」の意味・わかりやすい解説

ニジマス
Oncorhynchus mykiss; rainbow trout

サケ目サケ科の魚。全長は河川型では 60cm内外であるが,降湖や降海するものはさらに大きくなる。体はやや長く,側扁する。体の背部は暗青緑色ないし暗緑褐色で,腹部は銀白色。背面,背鰭,尾鰭などに黒色斑点が多数散在する。体側には淡赤色縦帯があり,名前の由来となった。カムチャツカ,アラスカからカリフォルニア原産。北方域で降海するものは,最大 120cm程度に達する。日本には 1877年に初めて移入された。ほかのサケ・マス類より比較的高い水温に耐えるので,各地の河川,湖などで養殖されている。釣魚として人気があり(→川釣り),ヨーロッパ,南アメリカ,オーストラリア,ニュージーランドなどに移殖されている。

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栄養・生化学辞典 「ニジマス」の解説

ニジマス

 [Oncorhynchus mykiss].サケ目サケ科サケ属の淡水魚.各地で養殖されている食用魚.

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世界大百科事典(旧版)内のニジマスの言及

【在来マス】より

…日本古来から生存していたサケ・マス類の総称。輸入種であるニジマス(イラスト)その他が全国に普及するにつれ,それに対比させて生まれたことば。日本におけるマス類の養殖の始まりは,1877年アメリカのカリフォルニア州シャスタのニジマス卵を東京に輸入してからで,第2次世界大戦後,冷凍技術が確立してアメリカへ輸出するようになって急速に日本各地に養殖場が開設され生産量が増大した。…

※「ニジマス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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