ニッチ(読み)にっち(英語表記)niche

翻訳|niche

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ニッチ(生態的地位)
にっち
niche

C・ダーウィンが『種の起原』のなかで「自然の経済における位置」と表現した概念が、後の生態学において具体化され、ニッチ(生態的地位ecological niche)とよばれるようになった。通常は、ある生物が生物群集内で何をしているかを記述するのに用いられる。アフリカのサバンナのダチョウのニッチはオーストラリアの草原でエミューが占める地位と似ている、といった使い方もされる。
 最初にこのことばを定着させたのは、アメリカのヨセミテの動物相を研究したグリンネルJ. Grinnelである。種というものはそれぞれ特有の生息場所ができると、そこを埋めるように進化する、と彼は考え、その最小の分布単位を生態的地位と規定した。ここでいう生息場所とは、単なる非生物的環境ではなく、植生や食物や敵、競争者も含めた環境を意味する。その後、イギリスのエルトンC. S. Eltonが、現代生態学の古典ともいうべき『動物の生態学』(1927)において「生物が群集のなかで何をしているかということ、生物的環境における位置、食物や敵に関する諸関係」とこれを定義した。ここでは生息場所を、植生を含めた空間的場所として限定し、生態的地位をいわば関係概念として規定した。
 一方、1957年にアメリカの生態学者ハッチンソンG. E. Hutchinsonは、生態的地位を、非生物的環境諸要因に対する個体群の反応とみて、多次元空間における位置として数理的に表現する方法を提唱し、またその個体群が潜在的にもつと考えられる基本的ニッチと、競争者などとの現実の相互作用の結果として実現されているニッチを峻別(しゅんべつ)した。これを「ハッチンソンのニッチ」とよび、前述の「エルトンのニッチ」と概念的に区別される。この定式化は、よく似た生活要求をもつ2種は共存できないとする競争排除法則から出発しており、ニッチのずれや重複を競争の指標として量的に評価する試みに道を開いた。その後の野外研究や理論的展開の経緯をみると、生物群集の理解に欠くことのできない食物関係を含めた分析が要請され、ハッチンソンのニッチも、広く資源利用のスペクトルとして拡大解釈されてきたといえる。しかし、生態的地位をどのように考えるかということは、生物群集をどのように把握するかの、依然として一つの重要な鍵(かぎ)であり、単に生物群集内の位置の記述にとどまらず、むしろ関係概念そのものとして、いっそう展開されるべきであろう。[遠藤 彰]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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