日本大百科全書(ニッポニカ) 「ノビル」の意味・わかりやすい解説
ノビル
のびる / 野蒜
[学] Allium macrostemon Bunge
Allium grayi Regel
ユリ科(APG分類:ヒガンバナ科)の多年草。ネギの仲間である。地下に径1~2センチメートルの球形の鱗茎(りんけい)があり、晩秋から線形の根生葉を出して越冬する。花茎は高さ50~80センチメートル、下半部に2~4個の茎葉がある。葉の断面は三角状で、上面に浅い溝がある。5~6月、茎頂に1個の散形花序を開く。包葉は膜質、卵形で先が長く伸び、若い花序を包む。花は淡紅紫色で、十数個ある。花柄は長さ1.5~2センチメートル。花被片(かひへん)は6枚、卵形で長さ4~5ミリメートル。雄しべは6本、花糸は花被より長い。雌しべは1本、子房上位で、3室。果実は裂開し、各室に2個の黒色の種子がある。花は普通は大部分が発達せず、球形で無柄のむかごに変化している。日当りのよい道端や土手の草地に生え、日本全土、東アジアに広く分布する。鱗茎や若葉は食用になる。古代に栽培されたものが野生化したものといわれる。
[河野昭一 2019年1月21日]
文化史
縄文時代すでに食用にされ、東京都八王子市宮下遺跡の勝坂(かっさか)式深鉢形土器の中から、炭化したノビルの鱗茎(りんけい)が出土した。古代にも春先の重要な野草菜であったとみえ、『古事記』に応神(おうじん)天皇の歌として、「いざ子ども野びる摘みに、ひる摘みに……」が載る。『万葉集』には調味料の一つとして「醤酢(ひしほす)に蒜搗(ひるつ)き合(か)てて鯛願ふ我にな見えそ水葱(なぎ)の羹(あつもの)」(長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)、巻16)と詠まれる。
[湯浅浩史 2019年1月21日]