改訂新版 世界大百科事典 「ハリセンボン」の意味・わかりやすい解説
ハリセンボン (針千本)
porcupine puffer
Diodon holacanthus
俗にハリフグともいう。フグ目ハリセンボン科の海産魚。本州中部以南,世界各地の温帯から熱帯にかけて広く分布する。体はまるく,上下両あごの各2枚の歯は中央で癒合していない。体表のほぼ全面にうろこの変形した可動性の長くて強いとげがあり,ふだんは倒れているが,刺激に反応して腹をふくらませるといっせいに直立して,全身がいが栗状になる。この魚の名称もこれに由来する。全長40cm。浅海の岩礁付近などにすみ,4~8月ころ,南西諸島から台湾,フィリピン付近で産卵し,稚魚は黒潮,対馬暖流にのって日本沿岸に達する。ときに大群をなして漂着し,漁網を損傷するなど漁業の妨害になることがある。地方的に食用とされ,無毒。骨,肉,内臓を除いて整形乾燥し飾物にする。
執筆者:日比谷 京
民俗
日本海沿岸では一般に12月8日の針供養の日に針千本という魚が吹きよせられてくるといい,富山県新湊市付近ではしゅうとめにいじめられた嫁が針山の針を盗んだという無実の罪をきせられて海に身を投げたのがちょうどこの日で,そのため前日から海が荒れるのだと伝えている。ハリセンボンは熱帯性の魚で水温が下がると弱って海浜に打ち上げられるらしく,その性質や形姿から針供養と結びつけられたと思われる。能登地方ではハリセエボとなまり,歳暮のこととも解している。また針のようなとげが多いことから,魔よけとして門口につるす土地もある。
執筆者:千葉 徳爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報