歳末になされる贈物をいう。今日では一年間世話になった者への感謝の礼として広く会社の上司や子どもの先生などにも贈られる。しかし,本来正月は盆と同様祖先の御魂(みたま)祭の機会であり,歳暮はその祭りの供物としておもに他出した子どもや分家らが親や本家のもとへ持参するのが古い形態であったとみられる。今でも大晦日に〈親の膳〉〈本家礼〉などと称し,魚を添えた膳を親もとや本家へ持参する習俗が残っている地方もある。歳暮はまた御魂祭の供物であるのみならず,生きている親の長寿を願う贈物でもあった。現在贈られる品は各種日用品に及んでいるが,元は米,餅,魚など食べ物が主であり,これを食べさせて生者の霊力を強化させる意味があったと思われる。ことに魚類は年取り肴と称し,年越しの膳に必ず付ける食べ物として広く用いられ,東日本では塩サケ,西日本では塩ブリが多く贈られる。このほか歳暮を年取り物,年取り米と呼ぶところもある。以上のことから,歳暮とは本来大晦日の年取りのための食べ物ではなかったかとも考えられている。
→贈物
執筆者:岩本 通弥
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年の暮れに、平素世話になった人や、目上の人に感謝の心をもって物を贈ることをいう。現在では夏の中元(ちゅうげん)とともに形式化し、儀礼的な面が強くなっている。もともとこの二つの時期は先祖の祭りをするときで、その子孫が食物を持ち寄って共同飲食をするという行事に、この習俗の根源はあった。そのため地方によっては、正月や盆に嫁・婿が食物を調理して親里に持って行くことがあり、これを親の膳(ぜん)とよんだ。また材料を持って行って、先方で鍋(なべ)を借りて調理するのを鍋借りなどといった。このような習俗が、いつか贈答という形になるまでに変化したのは、長い年月とその意義の段階的忘却があったようである。
現在の歳暮の贈答品にも、サケやブリなどのなまぐさものを用いる習わしや、その1年の間に不幸のあった家にアラミタマと称する贈り物をするという習俗が守られている地方があるなどは、前述のもともとの意義を残留しているとみられる。
[丸山久子]
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… 贈物をする習慣は古今東西を問わず広く存在する行為であるが,ヨーロッパなどでは歴史的に都市の発達した中世以降,贈与慣行は貨幣経済に駆逐され衰退していったといわれている。だが日本では貨幣経済の発展とも併存し,中世には武士の間で八朔(はつさく)の進物が幕府が禁令を出すほど流行したほか,中元や歳暮は逆に近世以降の都市生活の進展によってより盛んになるなど特異な展開を示してきた。現代においても一方では前近代の虚礼,農村の陋習(ろうしゆう)といわれながらもいまだ根強く,H.ベフの調査(京都,1969‐70)によれば一世帯当り月平均8.1回の贈物をしその費用は月収の7.5%にのぼるという。…
※「歳暮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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