ハロゲン(塩素Cl、臭素Br、フッ素F、ヨウ素I)とハロゲン以外の原子との新たな結合を生じさせること。フッ素化、塩素化、臭素化、ヨウ素化の総称。ただし、ハロゲン化物のハロゲンを他種のハロゲンで置き換えるのはハロゲン交換反応といい、ハロゲン化とはいわない。
無機化学では、ハロゲン化とよぶことは少ないが、アルミニウム、リン、硫黄(いおう)などの元素と塩素や臭素との直接反応によって、それらの元素の塩化物や臭化物を得る場合がハロゲン化にあたる。
しかし、三酸化硫黄とハロゲン化水素との反応で、ハロゲン化スルホン酸をつくる反応は、普通はハロゲン化とはよばない。
他方、有機化合物中の無機残基の一部をハロゲン原子で置換する場合はハロゲン化とよぶ。
[加治有恒・廣田 穰 2015年3月19日]
有機化学では、主として炭素原子とハロゲン原子の結合を生成する反応行程をハロゲン化とよぶ。工業的には塩素化がもっとも重要で、フッ素化、臭素化、ヨウ素化がこれに次ぐ。
[加治有恒・廣田 穰 2015年3月19日]
塩素原子を導入する行程をいう(置換反応の2種類がある。
)。反応の形式として、付加反応と付加は不飽和結合(二重結合、三重結合)に塩素または塩化水素を付加させる反応で、エチレンと塩素から1,2-ジクロロエタン、アセチレンと塩化水素から塩化ビニル、ベンゼンと塩素からヘキサクロロシクロヘキサン(BHC)を得る反応がこの例である。ベンゼン環への塩素の付加は光照射が必要である。
置換では、分子状塩素Cl2によるメタンの塩素化がある。この反応には光照射が必要で、メタンCH4の四つのHは順次Clに置換されるので、塩化メチルCH3Cl、ジクロロメタンCH2Cl2、クロロホルムCHCl3、四塩化炭素CCl4が得られる。
エタノール(エチルアルコール)と塩化水素から塩化エチルを得る反応では、エタノールC2H5OHのOH基が塩化水素HClのClにより置換されている。
塩素化には、塩素や塩化水素以外に、塩化チオニルや次亜塩素酸塩などいろいろな塩素化剤が用いられている。
芳香族化合物に鉄粉、塩化鉄(Ⅲ)、塩化アルミニウム(無水物)などのルイス酸触媒の存在下で塩素を作用させると塩素化がおこる。工業的にベンゼンからクロロベンゼンを合成するのに、この方法が応用されている。実験室で芳香族塩素化合物をつくるにはザンドマイヤー反応によることが多い。
[加治有恒・廣田 穰 2015年3月19日]
化合物中にフッ素を導入する反応行程(
)をいい、現在おもに使われているのは次の方法である。(1)炭化水素にフッ素ガスを反応させて水素をフッ素に置換する。濃いフッ素ガスをそのまま用いると反応が激しくおこるので、ヘリウムで薄めて用いることが多い。抗癌剤(こうがんざい)として重要な5-フルオロウラシルを合成する際には窒素で薄めたフッ素を用いてフッ素化する。
(2)原料化合物を無水フッ化水素に溶解して電気分解によりフッ素化する方法が、工業的に用いられている。シモンズJoseph H. Simonsらにより1940年代に開発された方法で、アルコール、ケトンなどの有機酸素化合物や有機硫黄化合物の全部の水素をフッ素化することができる。
(3)アルコール(第二級または第三級)とフッ化水素‐ピリジン混合物と反応させて、ヒドロキシ基をフッ素に置換する。
(4)塩素化炭化水素の塩素原子を、触媒とフッ化水素を用いてフッ素原子に置換する。この反応はハロゲン交換反応であるが、通常はフッ素化に含める。
[加治有恒・廣田 穰 2015年3月19日]
臭素原子、ヨウ素原子を導入する反応行程を、それぞれ臭素化、ヨウ素化という(
、 )。塩素化と同様に、付加または置換により達成できる。二臭化エチレンはエチレンに臭素を付加させて合成し、ブロモベンゼンは臭化鉄(Ⅲ)を触媒として臭素によりベンゼンを置換して合成する。赤リンの存在下で臭化水素をエタノールと反応させて、OHをBrで置換して、臭化エチルを合成する臭素化反応もある。ヨウ素化も同様に行うことができるが、反応性が低いのでくふうを要する。直接にヨウ素化して、芳香族ヨウ化物を合成できる場合は限られているので、普通は芳香族アミンからザンドマイヤー反応(
)により合成する。[加治有恒・廣田 穰 2015年3月19日]
有機ハロゲン化合物の生成反応をいう.塩素化,臭素化は一般的であるが,フッ素化やヨウ素化はやや特異である.反応の基質や手法により,次のように大別される.
(1)アルカンは反応性に乏しいが,光照射下に反応させるとラジカル反応により塩素や臭素でハロゲン化される.この反応はフリーラジカル連鎖機構で進行し,置換されやすさはベンジル位 > 第三級 > 第二級 > 第一級 > 電子求引性基のα位の順である.
(2)アルデヒド,ケトン,カルボン酸のα位は,酸または塩基触媒の存在下に,エノール構造へのハロゲンの求電子攻撃により,容易にハロゲン化される.
(3)各種の有機金属化合物(たとえば,グリニャール試薬など)も求電子的にハロゲン化され,ハロゲン化アルキルを与える.塩化物や臭化物をヨウ化物に変換するのに適している.フッ化物もこの反応や有機リチウム化合物とフッ化ペルクロリルFClO2との反応で合成できる.
(4)不飽和化合物は多重結合への付加反応により容易にハロゲン化される.反応性はBrCl > ICl > Br2 > HBr > I2 である.Br2 の付加は炭素-炭素結合の定性や定量に用いられる.
(5)芳香族化合物は,金属触媒の共存下に Br2 や Cl2 を反応させると,求電子的置換反応によりハロゲン化される.この反応は,通常,鉄触媒の共存下で行われる.
(6)官能基(たとえば,アルコールのヒドロキシ基など)の変換によるハロゲン化は種々の方法で行われる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
有機化合物に1個またはそれ以上のハロゲン原子を導入する反応で,ハロゲンの種類によって,フッ素化,塩素化(クロル化),臭素化(ブロム化),ヨウ素化などと呼ばれる。(1)フッ素化 有機化合物のフッ素化は,近年薬理活性化合物との関連で,きわめて多くの反応が開発されている。(2)塩素化 工業的には塩素化が最も重要であり,多くの反応が開発されている。アセチレンと塩化水素の付加反応により生成する塩化ビニルは塩化ビニル樹脂の原料である。アルコールを塩化物に変換する反応は実験室でも重要である。(3)臭素化 臭素は室温で暗褐色の液体であるが,アルケンへ付加すると脱色されるので,この反応はC=C二重結合の定量に使われる。臭素化物は塩化物より反応性に富み,より簡単に合成できる。(4)ヨウ素化 ヨウ素化物はハロゲン化物のうちで最も反応性に富み,C-I結合が切れやすい。求核置換反応(求核反応)によって合成されることが多い。
執筆者:友田 修司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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