ローマ・カトリック教会の総本山サン・ピエトロ大聖堂に隣接するローマ教皇庁の中心建築。大小20の中庭を介して連なる複雑な建築群から構成され,教皇館Palazzo Pontificio,システィナ礼拝堂,美術館(バチカン美術館),図書館(バチカン図書館)等の重要施設を含む。サン・ピエトロ大聖堂北側にはすでに5世紀末ごろ,ラテラノ宮殿に常住していた教皇のための寓居があった。カール大帝(800)およびオットー1世(962)の戴冠時にはそれが整備されていたと想像されるが,概要が知られるのは12~13世紀に現教皇館の中核が建設されてからである。バチカン宮殿が現在の威容を備えたのは16世紀であり,大聖堂再建と並行してローマ・ルネサンスの壮大様式(グランデ・マニエーラ)を代表する大建築物へと整備・増築が進められた。現在の規模は建築面積5万5000m2(うち中庭部分2万5000m2),礼拝堂と諸室の総計1400に及ぶ。
教皇の居室,執務室,関係諸室から成る。パッパガッリ(オウム)の中庭北側に並ぶ〈火災(インチェンディオ)の間〉〈署名(セニャトゥーラ)の間〉〈エリオドーロの間〉は教皇ユリウス2世がラファエロに描かせた壁画(《アテネの学園》ほか)で名高く,〈ラファエロの間〉とも呼ばれる。東側の聖ダマススの中庭はブラマンテが起工,ラファエロによって完成された。
執筆者:日高 健一郎
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…市国の行政は教皇庁国務省の管轄下にあり,また外交に関しては教皇庁外務評議会がその担当機関で,国連ではバチカン市国の名の代りに聖座The Holy Seeの名称が使われている。市国内にはサン・ピエトロ大聖堂,バチカン宮殿,バチカン市国政庁,庭園などがあり,イタリア警察の管轄のもとに一般に開放されているサン・ピエトロ大聖堂を除くと,国境は市壁によって囲まれ,華麗な服装のスイス衛兵が警備に当たっている。バチカン宮殿は歴代教皇によって増築を重ねられた建物で,そのうち壁画に彩られたシスティナ礼拝堂,教皇館の〈ラファエロの間〉〈ボルジアの間〉などはバチカン美術館の一部をなしている。…
…この時期の代表的作品として,《聖母の埋葬》(ボルゲーゼ美術館),《アニョロおよびマッダレーナ・ドーニの肖像》(ピッティ美術館)のほか,《大公の聖母》(ピッティ美術館),《ひわの聖母》(ウフィツィ美術館),《牧場の聖母》(ウィーン美術史美術館),《美しき女庭師》(ルーブル美術館)など,多くの聖母子像が挙げられる。08年,教皇ユリウス2世に招かれてローマに赴き,ユリウス2世,レオ10世の下でバチカン宮殿の〈署名(セニャトゥーラ)の間〉(1508‐11),〈エリオドーロの間〉(1511‐14),〈ボルゴの火災(インチェンディオ)の間〉(1514‐17),〈ロッジア〉(1517‐19)などの装飾活動に従事した。とくに,〈署名の間〉の壁画《アテネの学園》《聖体の論議》は,変化に富んだ人物表現と完璧な全体構成によって,ルネサンス期の最高の傑作に数えられる。…
※「バチカン宮殿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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