バッド=キアリ症候群(読み)バッドキアリしょうこうぐん(英語表記)Budd-Chiari syndrome

改訂新版 世界大百科事典 「バッド=キアリ症候群」の意味・わかりやすい解説

バッド=キアリ症候群 (バッドキアリしょうこうぐん)
Budd-Chiari syndrome

肝静脈とその領域(肝静脈合流部の下大静脈を含める)の閉塞を起こした病変をさす。最初,バッドG.Buddによって1846年にアメリカにおいて臨床例が,次いで病理的記載がドイツにおいて99年キアリH.Chiariによって発表された。閉塞の原因には,先天性の膜様形成,凝血,腫瘍,静脈内膜炎などがある。先天性異常のほかには,肝細胞癌,副腎腎臓の癌などによる腫瘍塞栓や,骨髄増殖性疾患,夜間発作性ヘモグロビン尿など血液凝固を起こしやすい疾患に発現する。発症の頻度は少ない。症状として,肝臓からの静脈血の流出不良のため,肝臓の鬱血(うつけつ),肝腫大腹水,門脈圧の亢進,副血行路の発達,脾腫,食道・胃静脈瘤の出現がみられる。肝腫大に伴う腹痛も大多数にみられる。原疾患が悪性腫瘍でない場合でも,肝臓障害や上部消化管出血のために,発症から2~3ヵ月(急性型)または数年以内(慢性型)で死亡する。治療は非常に困難である。一般に,門脈-下大静脈吻合(ふんごう)による門脈の減圧が試みられるにすぎない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バッド=キアリ症候群」の意味・わかりやすい解説

バッド=キアリ症候群
バッド=キアリしょうこうぐん
Budd-Chiari syndrome

イギリスの医師 G.バッド (1808~82) とオーストリアの免疫学者 H.キアリ (51~1916) が血栓性静脈炎による肝静脈の閉塞症として別々に (1846,99) 報告したものであるが,現在では横隔膜直下の下大静脈と肝静脈の閉塞症と理解されている。原因としては,血栓性静脈炎のほかに先天異常があげられる。急性の場合は嘔吐,腹痛などの激しい症状で始って1ヵ月以内に死亡する。慢性の場合のおもな症状には,下大静脈の閉塞のためバイパスの血行路の発達,下半身浮腫,肝静脈の閉塞による門脈圧亢進がある。下大静脈の狭窄が膜性組織による場合は日本で開発された裂開手術が有効であるが,狭窄部が広範な場合,外科的治療は困難になる。

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