ソ連邦の小説家。同伴者作家の中で最も特異な鬼才。本名ボガウB.A.Vogau。父はボルガ流域のドイツ移民の出で獣医,母はサラトフの古い商家出身の知識人。十月革命時は彼の記録文学作品《機械と狼》(1925)の舞台となったコロムナに住んだり,パンを求めてロシア各地を流れ歩いたりした。1920年にモスクワ商科大学を卒業。革命時に観察したロシアの地方生活が象徴主義・自然主義的作風の下地となった。彼はベールイの作風を継ぎ,バーベリやパステルナークに芸術的にも人間的にも近かった。長編《裸の年》(1921)で一躍文名を上げたが,十月革命を原ロシアの復活とみる立場は論議をかもした。スターリンによる赤軍司令官フルンゼ謀殺をモデルとした《消されない月の話》(1926)は即日発禁,29年には全露作家同盟議長などにもなったが,ソ連風刺の《マホガニー》(1929)がベルリンで出版されるや文壇から追放された。30年代には社会主義建設の主題を前面に出し,コロムナ・ダム建設を描いた長編《ボルガはカスピ海に注ぐ》(1930)などがある。1926年と32年に訪日し,《日本の太陽の根》(1926),《石と根》(1934)を発表。37年日本のスパイのかどで逮捕された。
執筆者:工藤 正広
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ロシア・ソ連の小説家。本名ボガウ Вогау/Vogau。ドイツ系の獣医の家に生まれる。1920年モスクワ商科大学卒業。短編小説『春に』(1909)、『一生涯』(1915)などの初期作品には自伝的要素が濃い。革命時にコロムナで観察したロシア地方生活が象徴主義的、自然主義的文体の下地をつくった。ベールイの作風を継ぎ、18~19年の国内戦を題材にした長編小説『裸の年』(1921)で一躍文名をあげたが、革命を原始的な生命力にあふれた農民の、衰弱した都市文化に対する勝利ととらえる思想は物議を醸した。『消されない月の話』(1926)はスターリンをモデルにしたことで猛烈な攻撃を受けて即日発禁となり、ベルリンで刊行された『マホガニー』(1929)も攻撃を受けて反ソ作家として文壇から追放され、37年逮捕され獄死した。ほかに『機械と狼(おおかみ)』(1925)、『イワン・モスクワ』(1927)、『ボルガはカスピ海に注ぐ』(1930)などがある。「雪どけ」後、名誉を回復された。
[工藤正広]
『米川正夫訳『消されない月の話』(『世界短篇文学全集 第12巻』1963・集英社)』▽『川端香男里・工藤正広訳『機械と狼』(『20世紀のロシア小説 第八巻』1973・白水社)』
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