改訂新版 世界大百科事典 「フジツボ」の意味・わかりやすい解説
フジツボ (藤壺/富士壺)
barnacle
acorn-barnacle
蔓脚(まんきやく)亜綱完胸目フジツボ亜目Balanomorphaの甲殻類の総称。体を包む外套(がいとう)を取り囲む円錐形の周殻は,4~8個の癒合した殻板からなる。それらは殻口を左右相称的配列をして囲む。これらの殻板は原始の形を残していると思われるカメノテ類に見られる多数の殻板のうちのいくつかが残ったものである。肉質の柄部は失われ,広い殻底で他の物体に固着している。殻口には1対ずつの楯板と背板からなる蓋板があり,外套口を自由に開閉する。
すべて海産,約400種が知られる。多くは浅海の岩礁,岩壁などに付着し,アカフジツボなどでは流木,種々の浮漂物,船底にも付着する。なかにはオニフジツボ(クジラ)やカメフジツボ(カメ),ガザミフジツボ(カニ)などのように動物の体表に付着するもの,カイメンフジツボAcastaのようにイソカイメンの体内に共生するものもある。潮間帯の磯に見られる種類では,波の荒い外洋の海岸と,静かな内湾とではすむ種類も異なるが,外洋のほうが高いところにまで分布を広げる傾向にある。種類によってそれぞれの生活に適した高さを選び,層状に分布をしている。潮間帯の上部にはオオイワフジツボ,外洋の中部にはイワフジツボ,内湾になるとシロフジツボにしだいに置き換えられていく。中部から下部にかけてはクロフジツボとサラサフジツボ,干潮線に近い最下部にはオオアカフジツボが着生している。日本中部の海岸ではだいたいこのような順に種類が入れ代わっていくのが見られる。しかし,寒流海域の低潮線付近の岩礁上にはチシマフジツボが群生している。世界的な分布を示すサンカクフジツボは潮間帯から水深3000mにも及び,ベニアミフジツボは紀伊半島から日向灘の水深30~400mにかけて生息していることが知られている。
間潮時空気中に出ている間は,蓋板を閉じ,水分の蒸発を防ぎ,波に洗われたり,海水に浸ると蓋板を開き,そこから蔓脚を出し入れさせ,海水で運ばれてくる餌を捕食する。フジツボ類は雌雄同体であるが,生殖時期には陰茎を長くのばし相手の外套腔内に精子を送り込み,隣りの個体どうしで他家受精をする。卵からノープリウスで孵化(ふか)し,メタノープリウスを経て,二枚貝様の殻をもつキプリス幼生となる。キプリス幼生は初め正の走光性を示すが,後に他物に着く時期に近づくとともに走光性は負に変わる。この後期のキプリス幼生は白色と緑色の物体には付着しにくく,赤色と黒色の物体にひかれて付着する。キプリス幼生は触角で付着面をさぐり,良好なときはただちに第1触角基部のセメント腺から付着物質を出し,付着と同時に脱皮し,幼いフジツボに変態する。もし不適当なときは,良好なところに出会うまで,ある期間変態せずに生存する。フジツボの周殻は成長とともに大きさを増し,内部の軟体部だけが脱皮をする。このためプランクトン採集で得た資料中に毛だらけの足だけのような脱殻が見られるが,これがフジツボ類の脱皮殻である。
なかにはタテジマフジツボ,サンカクフジツボのように船底におびただしく付着し,船底汚損生物の主役となって,船速を低下させ,燃料の消耗を増大させるなどの害を与えているものもあり,これらの防除には今日まで種々の研究と手段が考えられたが,最良の法を得るに至っていない。これらのフジツボ類にはヨーロッパフジツボ,アメリカフジツボなどのように船底に着いて運ばれ,寄港地を中心に世界中に分布を広げつつあるものもある。
執筆者:蒲生 重男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報