南アメリカ大陸北東部に位置し,西側をスリナムに,南東部をブラジルに囲まれたフランスの海外県。面積はギアナ3国中最小で8万6504km2。フランス本国の6分の1に相当する。人口は20万6000(2006)。主都カイエンヌ。北部の海岸にはわずかな低地帯があり,中央内陸部は熱帯雨林におおわれた丘陵地とサバンナとからなり,南部奥地に進むにしたがい花コウ岩のギアナ高地につき当たる。20を超える河川はいずれもギアナ高地に源を発して,スリナムとの国境をなすマロニ川,ブラジル側にオヤポク川などが北上し,大西洋に注いでいる。気候は高温多湿で,雨期が11~7月にわたるが,とくに沿岸部で降雨量が年間4000mmを超える場所もある。内陸部の密林は樹種が豊富で紫檀,黒檀,マホガニーなどの良木を産出するが,近年は一般木材の生産・加工にも着手している。住民は黒人,インド人および白人との混血であるクレオールが36%を占めている。欧米並みの生活水準にひきつけられ近隣諸国から3万人(1994)以上の不法入国者を記録し,住民構成に大きな変化を与えた。このほかに約5%の先住民と黒人が内陸に離れ住んでいる。宗教はカトリック,公用語はフランス語であるが,一部にクレオール語が使われている。
産業は不振で農業開発もギアナ3国中最も立ち遅れている。海岸沿いの平地を開拓して得た約3000haが唯一の耕地で,伝統的なサトウキビと米,トウモロコシなどの穀類のほかに,70年代に移住したラオス人による野菜が食糧源として生産されるが,食糧の自給は確立しておらず牧畜業も皆無のため,食糧補給が重大な経済問題となっている。水産資源は豊富で,とくに近海エビはアメリカや日本に輸出されている。金,ボーキサイトなどの鉱物資源にも恵まれているが,社会資本の未整備が産業発展を遅らせている。フランス領ギアナは1946年にフランス海外県の地位を獲得し,48年には全住民にフランスの市民権が与えられた。4年ごとに行われる普通選挙により,議員16名が県議会に相当する総評議会を構成して立法および司法の機能を果たし,ギアナの行政については本国から派遣された知事が総評議会の補佐を得てその任にあたる。一方,総評議会は本国の国民議会および上院に代表を各1名派遣して国政に参加している。フランス政府は年間1200億ドルの維持費を計上し,住民への僻地手当も確立しているため,独立の気運は希薄である。
フランスは1637年にカイエンヌを建設したが最初の植民は失敗し,その後,当地方はイギリス,フランス,オランダ3国間の争奪戦に明け暮れた。1713年のユトレヒト条約以後,フランスは総督を送って植民を進めた。1794年から1805年まで本国から多数の政治犯が送られた。1809年にイギリス,ポルトガルの連合軍に占領されたが,14年のパリ条約に基づきフランス領が確定し,17年にフランスが奪回した。海岸平地にサトウキビ・プランテーションが築かれ,植民地は繁栄したが,48年の奴隷廃止によって労働力の不足に見舞われ,新たにインド人の契約移民を入れた。55年内陸部に金鉱が発見されると労働力が鉱山に移ってしまい,以後プランテーション経営は立ち直ることができなかった。1852年に囚人による植民が始まり,熱帯性気候のために多数の死者を出して不評であったが,1945年ようやく廃止された。また金鉱の発見に伴い,内陸部の領土をめぐりスリナム,ブラジルと国境紛争を引き起こし,現在も係争中である。これに代わる僻地利用策が,県都カイエンヌより56km北方に位置するクルーに設立されたアリアン・スペース・ステーションである。世界の商業衛星の大半を打ち上げるクルー基地には2万人の外国人労働者と年間6万人の業者が海外から集まってくる。これに伴う観光客の増加が今後の産業構造を変える要因となろう。
執筆者:寿里 順平
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南アメリカ北東部にあるフランスの海外県。北は大西洋に臨み、南と東はブラジル、西はスリナムに接する。面積8万3534平方キロメートル(2020)、人口15万7213(1999)、25万9865(2015センサス)。首都はカイエンヌ。南の国境地帯にギアナ高地の東端部をなすトゥムクウマケ山脈があり、最高点は860メートル。ここから国土は北東に向けて高度を下げ、内陸の熱帯雨林地帯とサバナを経て、海岸部には低湿な平野が広がる。おもな河川は西の国境をなすマロニ川と、東側国境のオヤポク川である。年平均気温は27℃、年降水量は平野でも3500ミリメートルに及ぶ。4~7月と、11~1月が雨期である。17世紀前半からの植民の歴史をもつが、沿岸にいくつかの植民地が開かれただけで未開発地が広い。耕地は沿岸平野にみられるのみで、米、トウモロコシ、コーヒー、カカオ、キャッサバ、バナナ、サトウキビなどが栽培される。鉱産物は1853年に発見された金と、ボーキサイトがある。主要輸出品はラム酒、木材など。住民はヨーロッパ系、アフリカ系、アジア系、先住民系に分けられるが、前2者がもっとも多い。大部分は海岸地帯に居住し、とくにカイエンヌには全人口の3分の1が集中する。公用語はフランス語で、宗教はカトリックが多い。1794年から1938年まで本国の流刑地として囚人が送られてきたが、1945年以後は流刑者は存在しない。1946年に海外県となり、現在、南アメリカ大陸唯一の非独立地域である。なお1964~1968年に建設されたヨーロッパ宇宙ロケット開発機構のギアナ宇宙センターは、カイエンヌの北西50キロメートルのクールーにある。
[山本正三]
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