日本大百科全書(ニッポニカ) 「へそくり」の意味・わかりやすい解説
へそくり
家族共同の家計用ではなく、家族のだれかが個人的に使用できる私財。臍金(へそがね)ともいい、へそくりに臍繰の字をあてるのが通例なように、いまでは懐の奥深くしまっておくべき隠し金と解されている。そこで、女房がへそくりの隠し場所を主人に知られぬようくふうを凝らすといった話が流布している。女性には糸・針や化粧品など私有品を入れておく箱や籠(かご)があり、へそくりを高知県幡多(はた)郡や長崎県対馬(つしま)で針箱銭(はりばこぜに)・針箱銀、長野県北安曇(きたあずみ)郡で継(つ)ぎ箱金(ばこがね)などとよんだ。高知県でオゴケゼニといったのも、苧(お)を績(う)んでためていく苧笥(おごけ)の利用法として、苧績みが衰えてからも私財を入れておくことがあったからである。また各地でホマチ、マツボリ、シンガイ、ホッタなどとよぶのは、これらを私生児呼称とする場合と同様、内証という感覚がいずれにも秘められているからである。しかしそれらの原義は新開墾地をさし、けっして秘密にしておけるものではなく、家長の公認もしくは黙認を要した。沖縄・奄美(あまみ)諸島で女性や次男以下の私財をワタクシ(私)というのも同様で、金銭以外に土地や牛・豚などをも含んでいる。岐阜県大野郡白川村で、大家族制の時代、結婚した男女には月に1日か2日、家長公認のワタクシ日、シンガイ日があり、各自のシンガイ田、シンガイ畑を耕し、その収入を私財にあてたという。このようにへそくりは名称もその意味、内容も多様であり、それらには、家族制度と、これをめぐる労働、経済など複雑な変遷が含められている。
[竹田 旦]
語源については諸説あって、へそは紡いだ麻糸をつなげて巻き付けた糸巻である綜麻(へそ)(巻子)をいい、「綜麻繰」とあてるべきだとする説が有力である。昔、女房が内職に綜麻を繰り、それで得たわずかな賃銭を蓄えたへそくり金を、約してへそくりとよぶようになったといわれる。また、麻糸を繰ることを内職とした女房は、毎晩3本ずつ別にしておき、親が死んだときにこの麻糸で経帷子(きょうかたびら)を織る習慣があり、それから転じて、別にとっておくことをへそくりと称し、それを金銭の場合にもあてたともされる。これら「綜麻」説に対し、へそは「臍」の意で、銭や貴重品を腹巻などで腹に巻き付けておいたところから、他の人に知られないようにひそかにためておくこと、またはその隠し蓄えおいた金銭をいうことになったとする説もある。このほかにも、へそは「臍包(へそくるみ)」の約で、胴巻などを腹に巻き付けること、あるいは腹に巻き付けておく金銭をいうことに由来するといった諸説がある。
[棚橋正博]