臍繰(読み)へそくり

精選版 日本国語大辞典 「臍繰」の意味・読み・例文・類語

へそ‐くり【臍繰】

  1. 〘 名詞 〙へそくりがね(臍繰金)」の略。
    1. [初出の実例]「しっかりと重たいは、臍繰に極った」(出典:浄瑠璃・鬼一法眼三略巻(1731)二)

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改訂新版 世界大百科事典 「臍繰」の意味・わかりやすい解説

臍繰 (へそくり)

公に対して私の,公開に対して多少とも秘密的な財産を一般にヘソクリという。ヘソクリという言葉が全国的に通用しているがホリタ,ホマチ,シンゲエ,シンガイ,ヘコゼニなど地域によってさまざまな語彙がある。ヘソクリという言葉は女たちが衣服調達にあたって苧ベソの幾分かを私したことからでたのではないかといわれている。つまり家族の公の財産の一部をないしょに蓄えることからヘソクリは始まったと考えられる。しかし多くの私財は公にも認められ公然と行われていた。たとえば飛驒白川村のかつての大家族では,シンガイと呼ばれる公的な労働に従事しない日が決まっていて,家族員はその日各自のシンガイ田(私田)を耕した。このシンガイ田の収穫はまったく私的に用いることができたという。ここで私生児をシンガイと呼ぶのはこうした私田と合わせて考えれば興味ある事実といえる。また佐渡のシンゲエはふつうの人が10ヵ月分働くところ13ヵ月分働いて,3ヵ月分を自分のものにすることをいい,これも公然と行われていたという。

 ヘソクリ・私財の多くは主婦権をもたぬ女性の私的な財産であり,これをめぐって嫁の実家との関係がしばしば付随していることも注目すべき事実である。たとえば石川県舳倉島(へくらじま)では海女たちは休日・祭日をシンガイ日といって,この日採った海藻を売って里の親に酒や金を贈ったという。また福井県若狭では嫁の季節的里帰りであるセンダクガエリがかつて盛んに行われていたが,その際に嫁が実家で編むセンダクムシロの販売代金は嫁の個人的収入となり,嫁はその金で生地を買って子どもたちに服を縫ったりした。このセンダクガエリは嫁が主婦権を姑から譲り受けるまで続けられ,主婦になるとともにこうした個人的収入は消える。これらの例からみれば,ヘソクリは主婦になる以前の女性の私的財産もしくは収入という特徴が濃厚である。したがってヘソクリはもともとは,2世代の夫婦が同居し,主婦と嫁の地位が大きく異なっている直系型家族に特徴的な現象であったといえる。
ほまち
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「臍繰」の意味・わかりやすい解説

臍繰
へそくり

主として家庭の主婦が内緒にたくわえる金銭へそは,紡いだ麻糸を巻いたものとする説と,懐中を意味する臍とする説がある。前者は,女たちが苧麻 (ちょま。カラムシ) を糸に紡ぐとき,私用に使うものを少しずつ取分けておいたことに発する説であろう。また,ところによって針箱銭,苧笥 (おごけ) 銭の呼称があるのは,それらが女性専用の容器であり,内緒金を隠した場所から出た呼称であると思われる。臍繰は私の金であり,公の金を動かすことができなかった女性たちの自由になる金であった。ときには実家の母からこうした私金をもらい受けることも各地でしばしばみられた。

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