公に対して私の,公開に対して多少とも秘密的な財産を一般にヘソクリという。ヘソクリという言葉が全国的に通用しているがホリタ,ホマチ,シンゲエ,シンガイ,ヘコゼニなど地域によってさまざまな語彙がある。ヘソクリという言葉は女たちが衣服の調達にあたって苧ベソの幾分かを私したことからでたのではないかといわれている。つまり家族の公の財産の一部をないしょに蓄えることからヘソクリは始まったと考えられる。しかし多くの私財は公にも認められ公然と行われていた。たとえば飛驒白川村のかつての大家族では,シンガイと呼ばれる公的な労働に従事しない日が決まっていて,家族員はその日各自のシンガイ田(私田)を耕した。このシンガイ田の収穫はまったく私的に用いることができたという。ここで私生児をシンガイと呼ぶのはこうした私田と合わせて考えれば興味ある事実といえる。また佐渡のシンゲエはふつうの人が10ヵ月分働くところ13ヵ月分働いて,3ヵ月分を自分のものにすることをいい,これも公然と行われていたという。
ヘソクリ・私財の多くは主婦権をもたぬ女性の私的な財産であり,これをめぐって嫁の実家との関係がしばしば付随していることも注目すべき事実である。たとえば石川県舳倉島(へくらじま)では海女たちは休日・祭日をシンガイ日といって,この日採った海藻を売って里の親に酒や金を贈ったという。また福井県若狭では嫁の季節的里帰りであるセンダクガエリがかつて盛んに行われていたが,その際に嫁が実家で編むセンダクムシロの販売代金は嫁の個人的収入となり,嫁はその金で生地を買って子どもたちに服を縫ったりした。このセンダクガエリは嫁が主婦権を姑から譲り受けるまで続けられ,主婦になるとともにこうした個人的収入は消える。これらの例からみれば,ヘソクリは主婦になる以前の女性の私的財産もしくは収入という特徴が濃厚である。したがってヘソクリはもともとは,2世代の夫婦が同居し,主婦と嫁の地位が大きく異なっている直系型家族に特徴的な現象であったといえる。
→ほまち
執筆者:上野 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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