内証(読み)ないしょう

精選版 日本国語大辞典 「内証」の意味・読み・例文・類語

ない‐しょう【内証】

〘名〙
[一] 仏語。みずから心のうちに仏教の真理を悟ること。また、その悟った真理。
※真如観(鎌倉初)「我仏なりと悟れば、内証(ナイショウ)の仏也」
[二] 表向きにしないで内々にしておくこと。また、そのもの。ないしょ。
① 外部には知られないようにしてある考えや意向。
(イ) 内々にもっている考え。内意。
※天草本平家(1592)一「テンタウ ノ gonaixô(ゴナイショウ)ニモ ソムキ」
(ロ) 本当の気持やおもわく。本心。内心。
※玉塵抄(1563)四七「魏の太祖の東曹を内証にいやがることをよう知て」
② (形動) 人に知らせないこと。あらわにしないこと。また、そのさま。
※仮名草子・身の鏡(1659)中「家中の者を、敵のやうに内証(ナイシャウ)に法度を立(たて)
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「由良之助が如在ないから、内証(ナイシャウ)で手当もしたらうのさ」
うちわの事情。内々の様子。内情
※俳諧・西鶴大矢数(1681)第三八「内証を聞たし風の吹やうに 船頭がなさけ乗合の上」
④ 家庭内部。うちわのこと。私事
※浮世草子・好色一代男(1682)六「御機嫌は、首尾はと、世間内証(ナイシャウ)ともに心を付ぬるかはゆさに」
⑤ 内々の経済状態。一家の財政状態、くらしむき。懐(ふところ)具合。
※俳諧・西鶴大矢数(1681)第四「内証の苦は色かゆる目安書 十露盤上手といはれし我も」
※黄表紙・莫切自根金生木(1785)上「おもては立派で内しゃうはくるしい」
[三] 表向きではない場所。また、内々の人。ないしょ。
① 奥向きの場所。奥の間。奥の庭。
浄瑠璃滝口横笛(1676)四「ないせうより、いとなまめいたる女の声にて」
② 主婦のいる奥の間。また、台所。勝手。
※浮世草子・西鶴諸国はなし(1685)一「内証(ナイシャウ)より、内義声を立て」
③ 江戸時代、遊女屋の主人の部屋。帳場。また、その主人。江戸では、吉原でいい、岡場所では部屋、居間などといった。
※浄瑠璃・長町女腹切(1712頃)中「お花一人は我れらが内、手放してはないせうに気遣い有馬の、云ふな云ふな」
④ 芝居の裏方楽屋
※浮世草子・世間胸算用(1692)三「内証(ナイシャウ)より近付の芸者に花をとらせ」
⑤ 他人の妻を敬っていう。内室。
※浄瑠璃・丹波与作待夜の小室節(1707頃)道中双六「姫さま御誕生、御ないせうのよしみにて、かかが乳を上まし」
身内(みうち)の者。うちわの者。親族
狂言記鱸庖丁(1700)「私は内証(ナイセウ)の者でござる」
[補注](二)(三)は、江戸時代以降「ないしょ」の形でも用いられ、「内所」「内処」の字を当て、あるいは「内証」を「ないしょ」と読ませている例もある。また、現代では「内緒」の字を当てることが多い。→ないしょ(内証)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「内証」の意味・読み・例文・類語

ない‐しょう【内証】

仏語。自己の心の内で真理を悟ること。内面的な悟り。
表向きにせず、内々にしておくこと。外部には隠しておくこと。また、そういう意向。内密。ないしょ。
「―にてのお掛合いもいよいよ手切と相成り候間」〈芥川・糸女覚え書〉
「商売の元手をとらすべしと、この―を両方へ聞かせしに」〈浮・桜陰比事・五〉
表向きでないところ。奥の間。特に、勝手、台所。また、そのやりくり。内々の経済状態。家の暮らし向き。ないしょ。「内証火の車だ」
「―より内儀声を立てて」〈浮・諸国ばなし・一〉
遊女屋の、主人のいる所。また、主人。ないしょ。
「―の千臆ちおくさんへ…伝言をたのまれやしたから」〈魯文安愚楽鍋
内輪の事情。内々のようす。内情。
「扇風かたへ参りて―を吹き込みければ」〈浮・禁短気・一〉
他人の妻を敬っていう語。内室。
「塩冶が―顔世の頼み」〈浄・忠臣蔵
内輪の者。みうち。親族。
「世間、―ともに心を付けぬるかはゆさに」〈浮・一代男・六〉
[類語](2隠密おんみつ極秘ごくひ厳秘げんぴ丸秘まるひ機密枢密すうみつ天機機事密事秘事暗部隠し事秘め事みそか事内証ないしょ秘中の秘みそ内密内分内聞内内うちうち内内ないない内輪遠慮内部こっそり内幕内裏うちうら内情内実ひそか忍びやかそっと秘密/(3経済やりくり収支家計台所勝手向き手許てもと秘密

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「内証」の意味・わかりやすい解説

内証
ないしょう

自内証」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の内証の言及

【公界】より

…公共のものをさし,井田の中央を公界といったともいうが,無学祖元の〈円覚公界〉という表現,〈雲堂公界の坐禅〉(《正法眼蔵》),〈公界人〉(東福寺文書)などの用例からみて,俗界から離れた修行の場や修行僧を意味するものと思われる。南北朝時代には〈述懐ハ私事,弓矢ノ道ハ公界ノ義〉(《太平記》)のように,私事に対する公をさす語として,一般的に使われはじめ,室町・戦国時代に入ると,公界は世間・公衆の意味で,内々,内証に対する言葉として広く用いられるようになった。それとともに,公界者,公界衆は私的隷属民(下人,所従)とは異なる遍歴の職人,芸能民をさし,遍歴の算置(さんおき)が公界者に手をかけることを昂然と拒否したような(狂言《居杭(いぐい)》),積極的な意味を持つようになる。…

※「内証」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android