フランスの風刺歌謡作者。パリに生まれ,フランス革命のさなかにほとんど孤児同然にして育ったが,王政復古期に,シャルル10世や教皇に対する痛烈な風刺歌(《イブトの王さまRoi d'Yvetot》《教皇の結婚Le mariage du pape》等)と,旧ナポレオン軍兵士を哀惜する歌を書くことによって,広く大衆の共感を得,一躍有名になった。1821年と28年刊行の2編の《歌謡集Chansons》が,いずれも公序良俗に反するものとして投獄され,罰金を課せられたが,そのことが彼をフランスで最も人気のある〈国民詩人〉の地位へと押し上げ,その歌集は10万部以上も売れた。33年に創作を絶った後も,七月王政から第二帝政に至るまで,民衆に絶大なる影響力をもつ詩人でありつづけたが,いかなる栄誉も公職も拒み,一庶民の生活と反権力・反権威の姿勢を守り通した。没後に《自伝Mabiographie》が出版された。彼の詩の大衆性と政治的影響力とが,生前の彼に対する過大な評価と死後の不当な過小評価を生み出した。
執筆者:田村 毅
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