オーストリアの経済理論家。ウィーン大学教授,大蔵大臣も務めた。ウィーン大学で法学を学び,ドイツの諸大学で経済学を修めた後インスブルック大学で教鞭をとったが,1889年大蔵省に入る。金貨の導入や砂糖補助金の打切りなどの政策策定に力があったが,軍事費の増大による財政難のため,1904年蔵相を辞任しウィーン大学教授となった。経済理論の分野では,F.von ウィーザーとともにC.メンガーの諸学説を拡張発展させ,オーストリア学派の中核的存在となる。生前その業績はやや過大評価されたきらいがあるが,最近は逆に過小評価に甘んじているともいえる。限界理論についてはウィーザーと見解の不一致があったが,メンガーの理論を中心にJ.H.von チューネンやレーJohn Rae(1796-1872)の迂回生産の概念を結合させ,とくに資本理論では生産の平均期間という概念に到達している。利子理論に関しても,現在財と将来財の価値の乖離(かいり)がなぜ起こるかという観点から,利子発生についての独創的な学説を提示した。しかしベーム・バウェルクを最も有名にしたのは,《マルクス学説体系の終焉》(1896)における《資本論》の体系的批判であり,これはマルクス価値理論批判の古典的著作となった。主著《価値と資本利子》(1884-1912)。
執筆者:猪木 武徳
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…網を作り,舟を準備するには,時間とその生産期間中の食糧供給が必要であるが,生産(獲物)の量は10倍になる。ベーム・バウェルクは,この迂回生産の考えを賃金基金に結びつけて,資本理論を組み立てようとした。すなわち,この漁労経済の例でいうと,漁師が網を編み終えるまで食べていけるように経済全体が蓄積している財貨が,網の製作者のための食糧であり賃金基金をなすとみるのである。…
…また,《原理》を無視し経済理論の研究を軽視していた新歴史学派が当時のドイツにおいて支配的であったので,メンガーは理論的研究の重要性を主張するために83年に《社会科学,とくに経済学の方法に関する研究》を公刊し,シュモラーと有名な方法論争をおこなった。 メンガーの主要な後継者の一人であるベーム・バウェルクは,95年以降三たび蔵相を務めたが,1904年にウィーン大学の教授となった。彼は大著《資本および資本利子》の第1巻〈資本利子論の歴史と批判〉(1884)において労働価値説にもとづく搾取利子説をはじめ多くの学説を論破し,第2巻〈資本の積極理論〉(1889)において有名な利子の3原因を説き,とりわけ迂回生産の重要性を強調した。…
…またワルラスと異なり,メンガーは不完全な市場に関心をもち,商品の販売力,貨幣の販売力を考察した。メンガーの後継者の一人,ベーム・バウェルクは《資本の積極理論》(1889)で利子の三原因を説き迂回生産の重要性を強調したが,その資本理論はK.ウィクセルによって一般均衡理論に導入される。メンガーのもう一人の後継者F.ウィーザーは,価格の厚生経済学的意味を明らかにし,先駆的な社会主義経済理論を展開している。…
…D.リカードとその追随者およびオーストリア学派によれば,資本は過去の労働の蓄積である。資本の量については,たとえばリカードは投下労働の量を,J.S.ミルは生存資料の量を,そしてE.vonベーム・バウェルクは平均生産期間の概念,つまり労働が生産過程内にとどまる平均の時間を考えるというようにさまざまであるが,基本となる考え方は同じである。これは,過去のさまざまな時点において生産に投下された労働を,たとえば1年前の労働と2年前の労働というように互いに異なる労働として取り扱うならば,生産と分配の定量分析においても有効な考え方である。…
…
[近代経済学]
生産期間を〈労働の成果が市場にもたらされるまでに経過せざるをえない相対的時間〉と最初に定義したのはD.リカードであるが,この概念を資本理論の中心に据えたのはE.vonベーム・バウェルクであった。彼は迂回生産は直接的生産よりもつねに大きな成果を生むとし,生産の迂回化と生産期間の長期化と資本の深化とは同義と考えた。…
…マルクスは,第1命題を所与として第2命題が成立するように剰余価値を配分して生産価格を導き,第3命題の成立をもって価値が生産価格を規制することの証明とした。 これに対していち早く反論したのはベーム・バウェルクで,彼はマルクスの転化論は成功していないと断ずると同時に,《資本論》第1部(価値論)と第3部(生産価格論)の間には〈融和しがたい矛盾〉があるとして〈マルクス体系の終結〉を宣した(1896)。ヒルファディングはエンゲルスの歴史・論理説(論理的なものは歴史的なものから偶然的なものを捨象したものであるという解釈)に依拠して,価値は単純商品(資本主義以前の商品)に妥当する概念であり,生産価格は資本制的商品に妥当する概念であって,両者は質的に異なると反論した。…
※「ベームバウェルク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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