翻訳|pathos
そこはかとなく身にせまる悲しい情感のこと。英語の音をそのまま移した語で,同様のユーモア(諧謔)との対比を意識して用いられることが多い。〈哀愁〉〈哀感〉〈悲哀〉〈悲傷〉などとも訳される。語源はギリシア語のパトスpathosにあり,パトスとは〈何かされる〉という受身のあり方を本義として,ここから受難や被害の意を経て,激しい感情に襲われた心の情動や情念,ひいては苦悩を意味するまでになっている。同じギリシア語のエトスethos,ēthos(習慣,性格)やロゴスlogos(言葉,理性)が人間精神の能動的・理性的で持続的な側面をあらわすのに対し,パトスは受動的・感情的で一時的な状態を語ろうとし,ここに激しさも盛り込まれるのである。だが日本語のペーソスには激しさが失せ,対象をみつめる目に諦念を感じさせる情調が強調されて,このような情調の感得される人生のできごととか,ことにその種の芸術作品の特質を語る用語となっている。
執筆者:細井 雄介
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