ボルン(読み)ぼるん(その他表記)Max Born

精選版 日本国語大辞典 「ボルン」の意味・読み・例文・類語

ボルン

  1. ( Max Born マックス━ ) ドイツの物理学者量子力学の新領域を開拓。一九三九年イギリスに帰化。波動関数の統計的解釈により五四年ノーベル物理学賞受賞。(一八八二‐一九七〇

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボルン」の意味・わかりやすい解説

ボルン(Max Born)
ぼるん
Max Born
(1882―1970)

理論物理学者。ドイツのブレスラウに生まれる。フランクフルト大学教授を経て、1921年ゲッティンゲン大学教授となった。1933年ナチスに追放されてイギリスに渡り、1939年に帰化した。1936年から1953年までエジンバラ大学教授、のち引退して旧西ドイツに住んだ。

 フランクフルト時代には、相対性理論の展開のほか、とくに結晶格子の力学を体系的に研究した。ゲッティンゲンに移ってからは、結晶格子の研究のほか、前期量子論から量子力学に移行するための多くの研究を行った。ハイゼンベルクが量子論における物理量の扱い方について一つのアイデアを出すと、ボルンは、それが数学における行列であることを見抜き、ハイゼンベルクおよびヨルダンとともに行列力学を建設した。これは、同じころシュレーディンガーが始めた波動力学と同等であることが証明され、どちらも量子力学の別の表現の仕方であることがわかった。

 量子力学の建設に大きな寄与をしたが、とくに有名なのは波動関数の正しい解釈を提唱したことである。これは波動関数の確率解釈とよばれ、波動関数の絶対値の2乗が、物理量の該当する値が観測される確率を与える、とするものである。すなわち、波動関数自体は、普通の空間のなかの水面の波動や音波・電磁波のような物理的に実在する波動を直接的に表すものではなく、対象系についてのすべての知識を含んだ確率振幅とよぶべき性質のものである。このボルンの解釈により、量子力学を現象に適用するときの仕方が明確になり、古典物理学における統計現象とは違う量子力学の統計的性格が明らかになった。

 イギリスに移ってからは、インフェルトと共同で非線型電気力学を提唱した。この理論では、電磁場の源である粒子は場の特異点と解釈される。また、素粒子の基本的性質を規定するものとして相反性原理を提唱した。また、光学、流体力学など多方面にわたって重要な研究をし、高度な内容の教科書を多く著した。「量子力学の基礎研究、とくに波動関数の統計的解釈」により、1954年ノーベル物理学賞を受けた。

[町田 茂]


ボルン(Stephan Born)
ぼるん
Stephan Born
(1824―1898)

ドイツの労働運動指導者。植字工をしていたが、1847年にマルクスらの共産主義者同盟に参加、翌1848年三月革命が起こると、ベルリンでドイツ最初の大規模な労働者組織「労働者友愛会」を結成し、生産協同組合による労資対立の克服を唱え、エンゲルスらから批判された。1849年のドレスデン蜂起(ほうき)に参加したのち、スイスに亡命。バーゼル大学で文学を講義した。『回想録』は三月革命に関する重要な史料。

[末川 清]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ボルン」の意味・わかりやすい解説

ボルン
Max Born
生没年:1882-1970

ドイツの理論物理学者。解剖学教授を父としてプロシアのブレスラウに生まれる。ブレスラウ,ハイデルベルク,チューリヒで学んだ後,数学のメッカ,ゲッティンゲンでD.ヒルベルト,H.ミンコフスキーの2人の大数学者から当時の最先端の数学を学ぶ。物理学者としてはA.アインシュタインを模範像とし,1914年以来終生もっとも親密な友人となる。彼との往復書簡集は出版され邦訳もある。1907年アインシュタインの着想に基づく固体の比熱の理論をT.vonカルマンとともに発展させ,これがボルンの後年のおもな研究テーマを,格子力学と量子論に決めることになる。15年と23年に出版された著書によって,格子力学の領域に統一的で明快なまとめを与え,固体物理学に対する一つの重要な基礎を築いた。

 1914年以後ベルリン,ブレスラウ,フランクフルト・アム・マイン各大学の教授を歴任後,21年ゲッティンゲン大学の教授となり,コペンハーゲン,ミュンヘンと並ぶ量子論研究の世界の三大中心の一つと成す。25年,当時彼の助手であったW.ハイゼンベルクが量子力学建設への最初の決定的な論文を発表するや,ボルンはW.ハイゼンベルク,P.ヨルダンとともにそれを数学的に完結した行列力学の形の量子力学として完成させた。さらに26年E.シュレーディンガーの波動関数の統計的解釈を衝突過程の例で示し,これが翌年のN.ボーア,W.ハイゼンベルクらの量子力学のコペンハーゲン解釈への道を開いた。その功績により後年(1954)ノーベル物理学賞を受賞。ゲッティンゲン時代のボルンをめぐる俊秀たちの中で,後に一家を成した物理学者は数多い。その中にはM.デルブリュック,M.G.マイヤー,W.ハイゼンベルク,P.ヨルダン,J.フォン・ノイマン,J.R.オッペンハイマー,W.パウリ,E.テラー,V.F.ワイスコップ,E.P.ウィグナーらがいる。

 33年ナチスのユダヤ人排撃によってゲッティンゲンを追われてイギリスに移住し,ケンブリッジ大学を経て36年からエジンバラ大学の教授を務めた。39年の相反性原理の思想は,湯川秀樹の非局所場の理論に取り入れられた。53年70歳で同大学を停年退職,晩年はゲッティンゲン近郊のバド・ピルモントに帰って,ラッセル=アインシュタイン宣言や,西ドイツの核武装に反対するゲッティンゲン声明にも加わるなど,原子時代の人類存在の危機について訴えつづけた。相対性理論,原子力学,量子力学,光学,結晶格子の動力学などの専門ならびに科学哲学の分野にわたる著書20冊があるが,300編の専門論文は彼の最高度の創造力を示している。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ボルン」の意味・わかりやすい解説

ボルン
Born, Max

[生]1882.12.11. ブレスラウ(現ポーランド,ウロツワフ)
[没]1970.1.5. ゲッティンゲン
ドイツの理論物理学者。ゲッティンゲン大学を卒業。フランクフルト大学教授 (1919) ,ゲッティンゲン大学教授 (21) 。 1933年ナチスに追われてイギリスに渡り,エディンバラ大学教授 (36) 。 53年ドイツへ帰った。初め相対論,熱力学,固体物性の研究に取組む。 26年彼の弟子であった W.ハイゼンベルクの新しい着想に刺激されて,彼および P.ヨルダンとともに量子力学の研究に熱中し,その最初の定式化である行列力学の建設者の1人となる。同じ頃 E.シュレーディンガーがまったく異なった立場から波動力学と呼ばれる量子力学の定式化を進めていた。ボルンはシュレーディンガーの定式化に統計的解釈を与え,この解釈はのちに量子力学にとって標準的なものとなった。このほか,粒子の散乱問題 (ボルン近似 ) ,原子間力の研究,結晶学,液体の運動学的理論など多彩な研究を展開した。 54年 W.ボーテとともにノーベル物理学賞を受賞した。晩年には戦争に科学を使用することに反対し,原子力と科学者の責任などについて論じた。

ボルン
Born, Stephan

[生]1824.12.28. リッサ
[没]1898.5.4. バーゼル
ドイツの労働運動家。ユダヤ商人の子で,本名ジモン・ブッターミルヒ。 1840年以来ベルリンで植字工として働き,労働運動に向う。 47年パリでエンゲルスを知り,共産主義者同盟に加入,南フランスやスイスで扇動活動を行なった。ドイツに三月革命が起るとベルリンに派遣され,労働者の全国組織結成のために尽力。 M.バクーニンとともに 49年のドレスデン蜂起を指導,その鎮圧後はスイスに亡命して,『バーゼル通信』 Baseler Nachrichtenを刊行するかたわら,バーゼル大学でドイツ・フランス文学を講じた。

ボルン
Born, Bertrand de

[生]1140頃
[没]1215頃.ダロン
フランスの吟遊詩人,いわゆるトルバドゥールの一人。風刺詩にすぐれていた。フランス南部オートフォールの領主で,イングランド王リチャード1世に加担してフランス王フィリップ2世と戦うなど,勇猛な武人としての一生をおくった。その息子も同名で,また詩人である。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「ボルン」の意味・わかりやすい解説

ボルン

ドイツ出身の英国の物理学者。ブレスラウ,ゲッティンゲン等の大学に学び,1914年ベルリン大学,1921年ゲッティンゲン大学各教授。1933年ナチスに追われ渡英,1936年―1953年エディンバラ大学教授。1939年英国に帰化。ハイゼンベルクのマトリックス力学の定式化に協力,また波動力学における波動関数の確率論的解釈を展開(1926年)して量子力学の基礎づけに寄与。ほかに分子・結晶格子・液体の量子力学的理論,非線形電磁場論等広範囲な研究がある。1954年ボーテとともにノーベル物理学賞。
→関連項目ハイゼンベルクマトリックス力学ヨルダン

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android