ポリチオン酸(読み)ポリチオンさん(その他表記)polythionic acid

改訂新版 世界大百科事典 「ポリチオン酸」の意味・わかりやすい解説

ポリチオン酸 (ポリチオンさん)
polythionic acid

一般式H2[O3SSnSO3](n=1,2,3,……)で示されるS-S-S結合を有する酸。n=5までが確認されている。n=0のジチオン酸dithionic acid H2S2O6もポリチオン酸に含めることもあり,スルファンジスルホン酸sulfane disulfonic acidとも呼ばれる。ジチオン酸は無色無臭で,水溶液としてのみ存在する。空気中で徐々に酸化され,加熱すると硫酸二酸化硫黄に分解する。

 ポリチオン酸はエーテル付加物として単離されている。たとえばn=1のトリチオン酸H2S3O6は,トリチオン酸ナトリウムを冷却下エーテル中で塩化水素と作用させ,トリチオン酸のエーテル付加物H2S3O6・2.4(C2H52Oとして得られる。これは-95℃で凝固し,50℃で硫黄と二酸化硫黄を放出して分解する。またトリチオン酸カリウム水溶液に過塩素酸を加えて生じた過塩素酸カリウムをろ別すると,トリチオン酸水溶液が得られる。これは常温で徐々に分解して,硫黄,亜硫酸,および硫酸を生ずる。

 H2SxO6─→H2SO4+SO2+(x-2)S

トリチオン酸ナトリウムは,チオ硫酸ナトリウムの飽和水溶液に過酸化水素を作用させて得られる。

 2Na2S2O3+4H2O2─→Na2S3O6+Na2SO4+4H2O

テトラチオン酸塩はチオ硫酸ヨウ素反応させて得られ,これはヨウ素の容量分析に広く用いられる反応でもある。

 2S2O32⁻+I2─→2I⁻+S4O62

二酸化硫黄の濃水溶液に低温で硫化水素を通じたワッケンローダー溶液には,各種ポリチオン酸イオンがコロイド状硫黄に混じって含まれている。
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化学辞典 第2版 「ポリチオン酸」の解説

ポリチオン酸(塩)
ポリチオンサンエン
polythionic acid(polythionate)

H2SnO6=[(HO)(O)2SSn-2S(O)2(OH)](n ≧ 2)のIUPACが受け入れる慣用名.IUPAC置換命名法による正式名称はポリスルファンジスルホン酸(n ≧ 3).n = 3はトリチオン酸[CAS 27621-39-2],n = 4はテトラチオン酸[CAS 13760-29-7].n = 2のジチオン酸は含めないこともある.かなり強い二塩基酸で,純粋なものを単離はできないが,水溶液,およびいくつかについてはエーテル付加物(固体のものもある)が得られる.水溶液もかなり安定である.塩は,[SnO6]2- を含むイオン結晶で,n = 20程度まではクロマトグラフィー分離確認されているが,さらにnの大きいものも存在する.アルカリ金属塩は安定である.
製法:(1)ワッケンローダー液に各種のポリチオン酸が含まれる.これを中和すると,それぞれの塩が得られる.
(2)As2O3の存在下で,S2O32-をSO2およびH2Sと反応させると得られる.原料比と製法の操作から,ある程度含まれる酸の組成を制御できる.反応は,

 6S2O32- + (2n - 9)H2S + (n - 3)SO2

3SnO62- + (2n - 12)H2O + 6OH 

(3)Na2S2O3の冷濃水溶液にH2O2を加えて酸化すると生成する.I2 で酸化するとS4O62-になる.塩などの [O3S-Sn-SO3]2- の構造は,両端の-SO3のSのまわりは正四面体に近く,これを-Sn-直鎖が結んでいる.∠O-S-S102~103°,∠S-S-S103°,O3S-S2.12 Å,中間のS-S2.20 Å.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ポリチオン酸」の意味・わかりやすい解説

ポリチオン酸
ポリチオンさん
polythionic acid

多チオン酸ともいう。一般式 H2SnO6 (n≧3) で表わされる化合物をいう。硫黄原子の数が3,4,5,6であるとき,それぞれ三チオン酸,四チオン酸,五チオン酸,六チオン酸という。いずれも水溶液としてのみ存在が知られている。アルカリ塩は比較的安定。これらの酸は硫化水素を亜硫酸溶液に通して得られるバッケンローダ液中に存在する。

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