細胞内に存在するDNAによく似たリボ核酸(RNA)でできた微小な生体分子。人では2千種類以上が見つかっている。DNAの情報をコピーする遺伝物質のメッセンジャーRNA(mRNA)と結合し、遺伝子の働きを調節する。タンパク質がつくられるスピードや量を制御する。マイクロRNAの働きを応用して、創薬や病気の治療法の研究が進められている。mRNAは塩基と呼ばれる小さな物質が多数連なっているが、マイクロRNAは20個ほどで短いため、当初は単なる切れ端とみられていた。
更新日:
出典 共同通信社 共同通信ニュース用語解説共同通信ニュース用語解説について 情報
1993年に線虫Caenorhabditis elegansの発生過程における細胞系譜cell linageの変異株の研究から発見された調節遺伝子の産物。miRNAと略記される。この発見により、アメリカのA・ファイアーとC・メローは、2006年にノーベル医学生理学賞を受賞した。なお、こうした低分子RNAを最初に「マイクロRNA」と名づけたのは、1984年(昭和59)水野猛(みずのたけし)(1949― )と井上正順(いのうえまさより)(1934― )の研究グループである。
マイクロRNA遺伝子の最初の発見例は、線虫の突然変異株であるlin-4遺伝子である。線虫の別の突然変異株であるlin-14遺伝子の発現はlin-4遺伝子によって抑制されるが、lin-4遺伝子の産物は22ヌクレオチドのRNA(リボ核酸)で、通常のリプレッサー(抑制因子)と異なりタンパク質をコードしていない。続いてlet-7遺伝子も同様に小さなRNAをコードしていることがわかり、同様な遺伝子の発現調節システムが線虫では60種類、ショウジョウバエで20種類、ヒトでも30種類と発見され、いずれもRNAの大きさは20~25ヌクレオチドの長さであった。また、シロイヌナズナArabidopsis thaliana(アブラナ科の雑草)で発見された16種類のマイクロRNAのうち半数はコメにも存在し種間での保存性がきわめて高い。
マイクロRNAをコードする遺伝子から転写された60~70ヌクレオチドのRNAは、ヘアピン型に折りたたまれ、2本鎖になった部分からダイサーdicerとよばれるRNA分解酵素でマイクロRNAが切り出される。マイクロRNAは、数種のタンパク質と会合し、RISC(リスク)(RNA induced silencing complex)とよばれる15S複合体(RNAタンパク複合体)を形成し、マイクロRNAと相補的な塩基配列をもったmRNA(メッセンジャーRNA)によるタンパク質への翻訳(RNAの塩基配列をタンパク質のアミノ酸配列に変換する操作)を阻害する。
[菊池韶彦]
『中村義一編『RNAがわかる――多彩な生命現象を司るRNAの機能からRNAi、創薬への応用まで』(2003・羊土社)』▽『菊池洋編『RNAが拓く新世界』(2009・講談社サイエンティフィック)』▽『L・ハートウェル他著、菊池韶彦監訳『ハートウェル遺伝学』第3版(2010・MEDSI)』
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新