改訂新版 世界大百科事典 「マーセリゼーション」の意味・わかりやすい解説
マーセリゼーション
mercerization
イギリスのマーサーJohn Mercer(1791-1866)によって1844年に発明された繊維の加工法。マルセル化ともいう。彼は濃厚な水酸化ナトリウム水溶液に綿繊維を浸漬すると著しく膨潤し,長さ方向に収縮することを見いだした。その後,綿糸や綿布を緊張状態で水酸化ナトリウム水溶液で処理して水洗,乾燥すると絹様の光沢が得られることが見いだされ,工業的に行われるようになった。この加工をマーサーの名にちなみマーセリゼーションと呼び,日本ではシルケット加工と呼ばれることが多い。このアルカリ処理により,結晶構造がセルロースIからIIへ変わり,結晶性が低下し,染料や化学薬品に対するアクセシビリティが増加し,寸法安定性が向上する。なお,無緊張状態でのアルカリ処理はスラックマーセリゼーションと呼ばれ,伸縮性のある綿糸あるいは綿布が得られる。液体アンモニア処理でもマーセリゼーションの効果が得られ,液体アンモニアマーセリゼーションと呼ばれる。液体アンモニアが浸透性がよいところから,当初はジーンズのような厚手の織物の加工に用いられたが,薄手の織物に適用すると防縮性,強度に優れた風合いの柔軟な生地が得られること,さらにこれに樹脂加工(形態安定加工)するとウォッシュ・アンド・ウェア性に優れたワイシャツなどが作れることがわかり,急速に普及しつつある。
執筆者:坂本 宗仙
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報