ムクロジ(英語表記)soapberry
soap-nut tree
Sapindus mukorossi Gaertn.

改訂新版 世界大百科事典 「ムクロジ」の意味・わかりやすい解説

ムクロジ
soapberry
soap-nut tree
Sapindus mukorossi Gaertn.

漢名は無患子,木患子。ムクロジ科の落葉高木。高さは通常10~15m,直径30~40cmになり,大きいものでは高さ20m,直径70cmに達する。葉は長さ30~70cmの偶数,ときに奇数の羽状複葉で互生する。小葉は3~8対あり,長さ7~18cmの狭長楕円形。花は淡黄緑色の小花で,6月ころ枝先に生じた大型の円錐花序に咲く。雄花と雌花が同一花序に雑居し,花弁,萼片はともに4~5枚,雄花のおしべは8~10本。果実は径約2cmの球形の石果で,10月に黄褐色に熟し,1個の堅い黒色種子を含む。関東以南の本州,四国,九州,琉球,済州島,台湾,中国,インドシナからヒマラヤ地方の暖帯~亜熱帯に分布し,しばしば人家周辺や公園に植えられる。種子を追羽根の球や数珠に用い,また炒(い)って食べる。果皮はサポニンを多く含み,セッケンのない時代に洗濯や洗髪に用いた。材は心材が淡黄灰色~淡黄褐色の環孔材で,気乾比重0.65~0.75,家具,器具等に用いるが,量がまとまらないので大きい用途はない。ムクロジの和名モクゲンジの漢名〈木欒子〉に由来し,両者の漢名があべこべに用いられたためという。

双子葉植物,離弁花類。世界の熱帯~亜熱帯を中心に約150属2000種があり,低木~高木のほかに約300種の木本または草本のつる植物を含む。葉はふつう互生し,単葉または複葉で,托葉はない。花は5数性で,基本的には萼片5,花弁5,おしべ10で2輪に並ぶ。花弁は欠くことがあり,おしべもしばしば8本に減少する。子房上位で1~4室あり,各室に1~2個の胚珠を有する。果実は蒴果(さくか),堅果,液果,石果,翼果,分離果などさまざまの形態を示す。種子は胚乳をもたない。カエデ科,トチノキ科などと近縁で,これらとともにムクロジ目Sapindalesを形成する。中国南部のレイシおよびリュウガン東南アジアランブータン,西アフリカのアキーa kee Blighia sapida Koenigなどは,種子のまわりの肉質の仮種皮が食べられるので,熱帯~亜熱帯で広く栽培される。木材が有用なものはこの科には少ないが,東南アジアからポリネシアに広く分布するPometia pinnata Forst.の材は最近おもにニューギニア地域からかなり多く日本に輸入され,マトアmatoaまたはタウンtaunの名で知られる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムクロジ」の意味・わかりやすい解説

ムクロジ
むくろじ / 無患子
[学] Sapindus mukorossi Gaertn.

ムクロジ科(APG分類:ムクロジ科)の落葉高木。高さ約10メートルに達する。葉は互生し、大形の奇数羽状複葉。小葉は7~9枚で広披針(こうひしん)形、全縁で先はとがり、基部は左右非相称。夏、枝先に大形の円錐(えんすい)花序をつくり、緑白色を帯びた小花を多数開く。雌・雄花ともに同一花序につき、萼片(がくへん)、花弁各4、5枚。雄花は雄しべが8~10本、雌花は雌しべが1本ある。果実は球形で径約2センチメートル、熟すと黄褐色になり、中に球形で堅い、黒色の種子が1個ある。林中に生え、中部地方以西の本州から沖縄、および中国、インド、インドシナ半島に分布する。名は、モクゲンジ(ムクロジ科の別植物)の中国名である木欒子を誤ってムクロジにあてたため、木欒子の日本語読みモクロシからムクロジになったという。庭園、神社に広く植栽される。

[古澤潔夫 2020年9月17日]

文化史

中国では紀元前から知られ、無患子の古名の桓(かん)は『山海経(せんがいきょう)』にみえ、郭璞(かくはく)は、果実を酒に漬けて飲むと、邪気を防ぐと注を施した。『嘉祐本草(かゆうほんぞう)』は、果皮は垢(あか)を洗い、面(めんかん)(そばかす)をとると述べている。無患子は、昔、神巫(しんぷ)がその木でつくった棒で鬼を殺したので、鬼を追い払い、患いを無(なく)すと伝えられたからという(『植物名実図考(めいじつずこう)長編』)。子は種子の意味である。果皮を漢方では延命皮(えんめいひ)とよぶ。サポニンを含み、泡立つので、それを洗剤に使った。『本草綱目』(1596)では、真珠の汚れを落とすのに用いるとの記述がある。日本でも明治時代まで、せっけんのように使用された。泡は消えにくいので、液状の消火器に使われている。種子は堅く、中国では唐代から数珠(じゅず)に用いられていた。日本では正月の羽根突きの球(たま)にされた(『和漢三才図会』)。『替花伝秘書(かわりはなでんひしょ)』(1661)では、戦(いくさ)から帰陣のおりにいける花に、楠(くす)と添え物に「むくろ木」をあげている。

[湯浅浩史 2020年9月17日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ムクロジ」の意味・わかりやすい解説

ムクロジ(無患子)
ムクロジ
Sapindus mukorossi

ムクロジ科の落葉高木。日本の本州中部以南および東アジア,インドに分布する。暖地の山林に生え,庭木として植えられることもある。幹は高さ 18m,直径 1mに達する。葉は 30~70cmの大きい羽状複葉で互生し,小葉は8~16個あって,全縁で卵形,左右の羽片はややずれて軸につく。6月頃,枝先に大型の円錐花序をつけ,淡緑色の5弁の小花を開く。花軸や枝に細かい毛がある。果実は径 2cmほどの球形で黄褐色に熟し,楕円形の硬い黒色の種子を1個生じる。種子は羽根つきに使うつく羽根の球に用いられ,果皮はサポニンを含み石鹸の代用,種子はまた食用にもされる。

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百科事典マイペディア 「ムクロジ」の意味・わかりやすい解説

ムクロジ

ムクロジ科の落葉高木。本州(関東以西)〜沖縄,東アジアの山地にはえる。葉は大型,ふつう偶数羽状複葉で,広披針形の小葉8〜12枚からなる。雌雄同株。6〜7月,小枝の先に大型の円錐花序を出し,淡緑色の小花を多数開く。果実は球形で10月に熟す。中には1個のかたい黒色の種子があり,追羽根の羽根のたまに用いる。果皮はサポニンを含み,かつてはセッケンの代用とされた。材を器具などとする。
→関連項目お弾き

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