改訂新版 世界大百科事典 「ムーラオ族」の意味・わかりやすい解説
ムーラオ(仫佬)族 (ムーラオぞく)
Mù lǎo zú
中国の少数民族の一つ。広西チワン(壮)族自治区の羅城県を中心に宜山,柳城,都安,忻城などの諸県に分布する。人口は約16万(1990)。自称は,ムーラン(Muləm),リン(Ling),ジン(Jin)など。漢族は彼らを仫佬と称し,チワン族はプージン(布謹)と称する。漢籍には姆佬,木佬などと記載される。言語はシナ・チベット語族中のチワン・トン(侗)語族トン・スイ(水)語支に属する。山間の渓流に開けた小平野,小盆地に居住し,水稲耕作に従事しているが,トウモロコシ,豆類,いも類などもつくる。米を主食とし,節日にはもち米食品を食べる。かつて羅姓,呉姓のなかで犬肉と動物の内臓を食べない集団があった。これはその祖先が遭難して犬に救われたという伝承に由来する。同姓が聚居して村落を形成する場合が多い。婚姻は従来父母の取決めで行われることが多かったが,青年男女が歌を相互にかけあって楽しむツォゥポ(走坡)を通じて結婚にまでいたることもあった。妻が結婚後もしばらくは夫家に同居せず実家で生活し,子供が生まれてはじめて夫家に移り住むという〈不落夫家〉や入贅(にゆうぜい)(婿入り)の風習もある。宗教は漢族の民間道教と混交したアニミズムを基本とし,社王,婆王,土主,盤古大王を崇拝し,法師(道士)と野敬婆(女巫)によって祭祀された。社王は人間の平安を守る神で村には必ず社王廟があり,春と秋の2回豚を供犠して祭る。婆王は安産と子育ての女神で旧3月3日をその誕生日としている。土主は各村の産土神である。ムーラオ族の人々にとって最も大切な祭祀は人畜の安寧保護と豊作を祈願して3年に1度行うイーファン(依飯)である。このときは,豚や羊の供犠,念経のほかに歌舞や芝居が盛大に行われる。
執筆者:長谷川 清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報