蒙古(もうこ)語ともいう。狭義では現在モンゴル国および中国の内モンゴル自治区で話されているモンゴル系の言語をさすが、広義ではモンゴル系民族が過去から現在にわたって使用してきたモンゴル系諸言語全般をさす。
[斎藤純男]
現代モンゴル語の分布地域はきわめて広く、モンゴル高原を中心に西はボルガ川下流域から東は中国東北部にまで及ぶ。総使用人口は500~600万と推定され、そのうちのほとんどを狭義のモンゴル語の話し手が占める。狭義のモンゴル語、ロシア連邦のブリヤーチア共和国のブリヤート語、同カルムイキア共和国のカルムイク語やそれと近い関係にある中国西部のオイラート語などの間の地域差は分布地域の広大さに比して驚くほど小さいが、アフガニスタンのモゴール語や中国に散在するダウール語、モングオル語などは著しく異なっている。
[斎藤純男]
モンゴル文字(蒙古字)は、チンギス・ハンが13世紀初頭にタタトゥンガというウイグル人に自分たちの言語をウイグル語によって書写させたのに始まるといわれる。アラム文字の系統を引く文字であるが、書式はそれをそのまま縦にしたもので、各文字は上から下へ綴(つづ)り、行は左から右に追う。17世紀ごろから字形に変化がおこり、それ以前のものをウイグル式モンゴル文字、それ以後のものを現代モンゴル文字とよんで区別する。この文字は表音文字ではあるが、oとu、tとdなどの区別をせず、モンゴル語にとって理想的なものではなかった。そこで、オイラートのザヤ・パンディタは1648年にオイラート語の発音を正確に表せるように改良を加えたオイラート式モンゴル文字(トド文字)を考案した。ブリヤート語、カルムイク語、モンゴル語ハルハ方言の3言語は20世紀前半よりロシア文字による正書法を採用しており、モンゴル文字を使用し続けているのは中国内のモンゴル人だけである(モンゴル国では、ロシア文字による正書法を捨ててモンゴル文字を復活させるという政策を90年代にうちだしたが、難航している)。そのほか、遼(りょう)を建国した契丹(きったん)族の用いた契丹文字、フビライ・ハンがチベットの高僧パスパに命じて元(げん)帝国内の諸民族の言語を書き表すためにつくらせたパスパ文字、ハルハのザナバザルが制作したソヨンボ文字などがあるが、いずれも長く使用されるに至らなかった。
[斎藤純男]
モンゴル語の系統はいまだ明らかとなっておらず、チュルク(トルコ)系やツングース系の諸言語と同系関係を有し、それらとともにアルタイ語族を形成するという説を支持する立場と、そうでない立場とがある。そして、前者のなかには朝鮮語や日本語との同系関係を認めようとする考え方もある。歴史的には、おもに音韻上の特徴により12世紀までを古代モンゴル語、16世紀までを中世モンゴル語、それ以降を近代モンゴル語と分ける。契丹文字が解読されていない現在、古代モンゴル語の直接の資料はないが、中世モンゴル語の文献は豊富で、「チンギス・ハン碑文」をはじめとするモンゴル文字による碑文類、『元朝(げんちょう)秘史』などの漢字で表音表記された諸文献、パスパ文字による碑文や牌子(ハイズ)、アラビア文字による辞書などがある。近代モンゴル語は、『黄金史綱』(アルタン・トプチ)、『蒙古源流』などの年代記やチベット仏典の翻訳をはじめとするモンゴル文字による膨大な文献をもつ。また『蒙語老乞大(ろうきつだい)』などのようにハングルの付されたものもある。
[斎藤純男]
音韻面での特徴として母音調和の存在があげられる。文法上の構造は日本語とほぼ同様で、語形変化は語尾の接尾によって行われ、語も主語―述語、修飾語―被修飾語の順に並ぶ。ただし、古い文献では代名詞の主格形と属格形がそれぞれ述語動詞と被修飾語に後置されており、これらは現在でもいくつかの方言に語尾として残存している。また、『元朝秘史』の言語は性や数などにより動詞や形容詞が特別の語尾を有していた。語彙(ごい)の面での特徴としては、チュルク系、ツングース系の諸言語と共通の語が多数存在すること、古くは印欧諸言語やアラビア語からの、そして近代ではチベット語や漢語、ロシア語などからの外来語が入っていること、家畜に関する語彙が豊富なこと、などがあげられる。
[斎藤純男]
『ナランツェツェグほか著『日本語・モンゴル語基礎辞典』(1998・大学書林)』▽『青木信治監編著『モンゴル語案内』(1997・平原社)』▽『栗林均「モンゴル諸語」(『言語学大辞典 第4巻』1992・大学書林)』▽『小沢重男著『モンゴル語の話』(1978・大学書林)』▽『野村正良著『蒙古語』(『世界言語概説 下巻』所収・1955・研究社出版)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
モンゴル民族の使用する言語。北部方言(ブリャート諸方言),中部方言(ハルハ,チャハル,オルドス諸方言),東部方言(ホルチン,ハラチン諸方言),西部方言(オイラト諸方言)に大別される。語幹の変化は少なく,語幹に接尾辞を付することで単語が形成される膠着(こうちゃく)語的言語。母音は「男性母音」「女性母音」「中性母音」に分かれ,男性母音と女性母音が同一単語中に現れることはない(母音調和)。文字はキリル文字(モンゴル国,ブリャーチア共和国,カルムィク・タングチ共和国),ウイグル式モンゴル文字(内モンゴル),トド文字(新疆(しんきょう)ウイグル自治区のモンゴル族)が使用されている。また13世紀にパクパ文字,17世紀にソヨンボ文字などが用いられた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…シベリアの南,中華人民共和国の北にひろがる広大なステップ性高原地帯モンゴル高原には,現在,モンゴル系の多くの言語が話されている。それらの言語をモンゴル諸語と呼ぶ。なお,かつては〈蒙古諸語〉あるいは単に〈蒙古語〉という呼び方もしばしば用いられた。また現在,〈モンゴル語〉という呼名が〈モンゴル諸語〉の意味で用いられる場合もあるが,こちらは狭義にはモンゴル国で話される言語を指す。
[下位区分]
モンゴル諸語は多くの方言に分かれるが,巨視的にみれば,東部方言と西部方言の二つに分けられ,その他,孤立した若干の言語を認めることができる。…
…モンゴル語を代表する言語の一つ。モンゴル国の公用語で,同国全域で通行するほか,内モンゴルの全域,また,カルムイク共和国,ブリヤート共和国のモンゴル人にも理解されるので,ハルハ語(あるいはハルハ方言)は,いわば,モンゴル族の共通語的な役割を果たしているということができる。…
…従来,広い意味では,モンゴル民族が過去から現在まで使用し続けている言語一般を指し,ハルハ蒙古語,ブリヤート蒙古語,ダフール蒙古語,あるいは蒙古文語などをも含めた場合にも用いられた。しかし,最近では,〈モンゴル語(モンゴル諸語)〉という語が〈蒙古語(蒙古諸語)〉にとって代わりつつあり,とくに,モンゴル国で用いられている言語は〈モンゴル語〉と呼ばれる傾向が強まっている。そしてそのような用語上の変化を前提にして,〈蒙古語〉という呼び方が〈蒙古文語〉の意味に用いられるようにもなっている。…
…なお,かつては〈蒙古諸語〉あるいは単に〈蒙古語〉という呼び方もしばしば用いられた。また現在,〈モンゴル語〉という呼名が〈モンゴル諸語〉の意味で用いられる場合もあるが,こちらは狭義にはモンゴル国で話される言語を指す。
[下位区分]
モンゴル諸語は多くの方言に分かれるが,巨視的にみれば,東部方言と西部方言の二つに分けられ,その他,孤立した若干の言語を認めることができる。…
※「モンゴル語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
「歓喜の歌」の合唱で知られ、聴力をほぼ失ったベートーベンが晩年に完成させた最後の交響曲。第4楽章にある合唱は人生の苦悩と喜び、全人類の兄弟愛をたたえたシラーの詩が基で欧州連合(EU)の歌にも指定され...
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