ライン川最大の支流。上流部のフランスではモゼルMoselle川と呼ばれる。全長約545km,流域面積2万8360km2。ボージュ山地南部に源を発し,パリ盆地東縁部のロレーヌ地方を北流して,ルクセンブルクとドイツとの国境をなす。ドイツ領に入ると北東に向きを変え,著しく蛇行しながら北のアィフェル丘陵と南のフンスリュック山地の間を流れて,コブレンツでライン川に合流する。モーゼル河谷はローマ時代より交通路として利用されたが,現在も鉄道や自動車道路,水運に重要な役割を果たしている。とくにコブレンツからメッスまでの約300kmには1964年に運河工事が完成し,1500トン級の船舶の航行が可能となった。モミの森林に覆われ,湖沼の多い上流のロレーヌ台地は鉄と石炭に恵まれ,モーゼル川に沿うナンシー,メッス,ティオンビルなどの工業都市を生んだ。モーゼル河谷は河岸段丘の発達がよく,段丘面上ではモーゼル・ワイン生産を目的とするブドウ栽培が盛んである。
執筆者:小野 有五
20世紀初頭,ドイツはモーゼル川の運河化を決定した。フランスも1870年と1914年の間にフルアール~メッス間を運河化したものの,船舶280トン用のゲージであった。メッスからティオンビルまで,モーゼル鉄鉱運河(CAMIFEMO)が完成したのは1932年である。ロレーヌの鉄鉱石と鉄鋼はマルヌ・ライン運河を経由して,ストラスブールでライン川に到達した。56年,フランス,ルクセンブルク,西ドイツは条約を結び,西ドイツはモーゼル川のアパハからコブレンツにわたる242kmを大ゲージで運河化することを受け入れた。うち26kmはルクセンブルクと国境をなしている。運河化に必要な費用のうち,フランスが2/3,西ドイツが約1/3,ルクセンブルクが若干負担し,58年から64年にかけて工事が行われた。1500トン級の船舶が通過可能で,3000トンの動力付バージも通過できる。モーゼル運河もあらゆる国籍船に自由公開されているが,ティオンビルからコブレンツにかけて通行税が徴収される。
執筆者:大嶽 幸彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
フランス北東部からドイツ中西部へかけて流れる川。ライン川の重要な支流の一つ。フランス語名モゼルMoselle川。フランス北東部のボージュ山脈南部に源を発し、ロレーヌ地方を北北西に流れ、ナンシー、メスを経て、ティオンビルから北東に転ずる。やがてフランスから流れ出て、しばらくドイツとルクセンブルクの国境をなしつつ流れたのち、ドイツに入ってザール川をあわせ、トリール(トリアー)からライン板岩山地を北東に流れて、コブレンツでライン川に合流する。流長545キロメートル。
上流部は、かつてはベルギーを経てオランダへ流れるムーズ川(マース川)の上流部をなしていたが、現在のナンシー西方地点での河川争奪(谷頭が隣の川の河床とつながる現象)により、流路がかわってライン川へ注ぐようになった。上流部を除けば河床の勾配(こうばい)は緩やかで、年間を通じて流量の変化が少なく、古来水運に役だってきた。現在、メスからコブレンツまで、所々、堰堤(えんてい)でせき止めて静水の人造湖の連続のような状態にし、堰堤の一端に閘門(こうもん)を設けて、大型の内陸水運用船舶の航行を可能にするという運河化工事が完成している。トリールとコブレンツの間は穿入蛇行(せんにゅうだこう)して屈曲のある峡谷をなし、沿岸の南向き斜面ではブドウが栽培され、モーゼルワインがつくられる。沿岸にはコッヘムやベルンカステルなど、いくつかの美しい古い町があり、観光・保養客も多く、春から秋までは遊覧船も上下する。
[浮田典良]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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