モーリヤック(英語表記)François Mauriac

改訂新版 世界大百科事典 「モーリヤック」の意味・わかりやすい解説

モーリヤック
François Mauriac
生没年:1885-1970

フランス作家ボルドー生れ。処女詩集《合掌》(1909)でM.バレスに認められたが,以後小説戯曲,評論を執筆。小説《愛の砂漠》(1925),《テレーズ・デスケルー》(1927),《蝮のからみあい》(1932),《夜の終り》(1935),《パリサイ女》(1941),戯曲《アスモデ》(1937),《愛されぬ人びと》(1945)などは,ほとんどボルドーとその近郊ランド地方のブルジョア家庭を舞台に,愛と憎しみの葛藤を回想形式と内的独白の手法を織りまぜながら描いたものである。《小説論》(1928),《神と黄金神》(1929)などの評論には,敬虔なカトリック信者としての顧慮と真実を描くべき小説家の使命との二律背反が語られているが,作中人物は大部分罪の世界に沈淪し,悪の力にあるいは抗(あらが)い,あるいは屈服している。それを恩寵の世界の陰画として示し,純粋さへの郷愁を読み取らせる意図を,前記の評論や《ラシーヌ伝》(1928)が物語る。第2次大戦中レジスタンスに参加,《黒い手帖》(1943)を刊行。戦後はカトリック的ヒューマニズム基盤に《フィガロ》紙,《エクスプレス》紙などに文芸・政治評論を発表。《ブロック・ノート》(1958,61)は日記形式の評論集である。ド・ゴールに心酔し,アルジェリアの独立政策を支持した。ほかに精神的自叙伝として《日記》(1934,37,40)や《内面の記録》正・続(1959,65)。伝記に《イエスの生涯》(1936)などがある。1933年アカデミー・フランセーズ会員となる。52年ノーベル文学賞受賞。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モーリヤック」の意味・わかりやすい解説

モーリヤック
Mauriac, François

[生]1885.10.11. ボルドー
[没]1970.9.1. パリ
フランスの作家。カトリックの家庭に育ち,ボルドー大学に学んだのち,1906年パリに出,文学活動を開始。詩集『合掌』 Les Mains jointes (1909) によって,M.バレスに認められたが,『鎖につながれた子供』L'Enfant chargé de chaînes (13) で小説に転じ,『癩者への接吻』 Le Baiser au lépreux (22) によって文壇的地位を確立。故郷ランド地方のブルジョア家庭に題材を取り,人間の罪を鋭く描き出す作風で,『愛の砂漠』 Le Désert de l'amour (25) ,『テレーズ・デスケイルー』 Thérèse Desqueyroux (27) ,『まむしのからみ合い』 Le Nœud de vipères (32) などの重厚な傑作を生んだ。また,スペイン共和派の支持,レジスタンス運動などで政治的にも活躍,評論『黒い手帖』 Le Cahier noir (43) を地下出版,カトリック世代の良心と呼ばれた。ほかに,戯曲『アスモデ』 Asmodée (37) ,評論『小説家と作中人物』 Le Romancier et ses personnages (33) ,『イエスの生涯』 Vie de Jésus (36) ,『日記』 Journal (5巻,34~50) ,『内面の記録』 Mémoires intérieures (59,65) などがある。アカデミー・フランセーズ会員 (33) 。 52年ノーベル文学賞受賞。

モーリヤック
Mauriac, Claude

[生]1914.4.25. パリ
[没]1996.3.22. パリ
フランスの小説家,批評家,劇作家。 F.モーリヤックの息子。 1938年以来コクトー,ブルトン,マルローらを論じる批評家として出発し,のち『フィガロ・リテレール』誌などで映画評論も手がける。 57年から「内的対話」 Le Dialogue intérieurの総題のもとに,ヌーボー・ロマン風の新しい技法を探究する小説を発表。主要作品は『女はみな妖婦』 Toutes les femmes sont fatales (1957) ,『街での晩餐』 Le Dîner en ville (59) ,『侯爵夫人は五時に出かけた』 La Marquise sortit à cinq heures (61) ,『引伸ばし』L'Agrandissement (63) など。ほかに,評論集『現代の反文学』L'Alittérature contemporaine (58) ,戯曲『会話』 La Conversation (64) ,日記と現時点での注記とを複雑に交えた『不動の時』 Le Temps immobile (10巻,74~88) などがある。

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百科事典マイペディア 「モーリヤック」の意味・わかりやすい解説

モーリヤック

フランスの作家。ボルドー生れ。詩人として出発したが,小説《癩者への接吻》(1922年)で注目され,《愛の砂漠》《テレーズ・デスケルー》で名声を確立,以後《蝮(まむし)のからみ合い》《パリサイ女》等で人間の心に潜む罪の意識をカトリックの立場で鋭くえぐる。評論《小説論》《小説家と作中人物》も重要。1952年ノーベル文学賞。
→関連項目ソレルスレジスタンス文学

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世界大百科事典(旧版)内のモーリヤックの言及

【反ファシズム】より

…日本の《土曜日》の名称はこれにならった)以下おびただしい数の週刊誌が,主としてフランスで作家や知識人の手で創刊されだすのも,この時期にほかならない。このほか,従来右翼作家とみなされてきたモーリヤック,ベルナノスらがスペイン内乱の現実を目にして反ファシズムの陣営に加わったことも記しておこう。とはいえ,36年末刊行のジッドの《ソビエト旅行記》,そのころからしだいに西欧に広がりだしたソ連の粛清裁判への疑惑,さらに37年5月のスペイン共和政府内における共産党によるアナーキスト,トロツキストの粛清といった一連の事実が,共和政府側に不利に展開しだした戦局とともに,反ファシズム戦線に亀裂を生じさせていったことは否定できない。…

※「モーリヤック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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