ヨーガ学派(読み)ヨーガがくは

改訂新版 世界大百科事典 「ヨーガ学派」の意味・わかりやすい解説

ヨーガ学派 (ヨーガがくは)

ヨーガの実習と形而上学の研究を旨とするインド六派哲学の一学派サンスクリットでは開祖の名にちなみ,パータンジャラPātañjalaと呼ばれる。開祖はパタンジャリと伝えられ,この学派の根本経典ヨーガ・スートラ》を作ったといわれている。この経典は,古くからさまざまな形態で存在していたヨーガを,仏教影響のもとに,サーンキヤ学派学説を借用して体系化したものである。サーンキヤ学説と違うところは,サーンキヤ学説では区別されている統覚機能(ブッディ),自我意識(アハンカーラ),思考器官(マナス)を,一括して心(チッタcitta)と称することが多い点,また,サーンキヤ学説では認めない最高神(イーシュバラīśvara)を認める点にある。そこで,ヨーガ学派は,ときとして有神サーンキヤ学派と呼ばれることがある。

 《ヨーガ・スートラ》の冒頭部分には,〈ヨーガとは心の作用の止滅(抑制)のことである〉というヨーガの定義が述べられている。ヨーガの実習法としては,8実習法が重要であるとされる。それは,(1)制戒ヤマ),(2)内制(ニヤマ),(3)座法(アーサナ),(4)調息(プラーナーヤーマ),(5)制感(プラティヤーハーラ),(6)総持(凝念,ダーラナー),(7)禅定(静慮,ディヤーナ),(8)三昧(等持,サマーディ)である。制戒というのは,不殺生,真実(不妄語),不盗,不淫,無所有という五戒を守ることである。内制というのは,内外の清浄,満足,苦行,学習,最高神への帰依専念のことである。以上の制戒と内制は,日常生活において実習されるもので,本来のヨーガを修するための予備段階である。座法とは,身体を不動にし,寒暑などに煩わされないようにするためのものであり,後世12種とか84種とかが数えられるようになる。調息とは,呼吸を止め,体内にたまった気息のエネルギーによって業を滅ぼすことである。制感とは,すべての感覚器官をそれぞれの対象から引き離し,それを支配することである。以上の五つの段階は,ヨーガ実習の外的段階であり,以下の三つの段階が内的段階(総制,サンヤマ)であるとされる。総持とは,例えば心臓とか鼻の先端,あるいは外界のなんらかの対象に心を結びつけることである。禅定とは,総持において心が結びつけられた対象を手がかりとした観念が,妨げられることなく持続させることである。三昧とは,対象だけが輝いて,心が空無であるかのような状態のことである。この三昧には浅深2種の段階がある。第1の段階は,対象の意識を伴い,また煩悩などの種子が残っているので,有想三昧とか有種子三昧とか呼ばれる。第2の段階はそのようなものがまったくなく,無想三昧とか無種子三昧とか呼ばれる。以上のヨーガの実習法に熟達したとき,真実知が輝き現れ,無明が滅せられるという。

 《ヨーガ・スートラ》に対して500年ころにビヤーサが注釈書を著した。この注釈書に対して,さらにシャンカラ(700ころ-750ころ),バーチャスパティミシュラ(10世紀ころ),ビジュニャーナビクシュ(16世紀後半),ナーゴージーバッタ(18世紀)が優れた注釈書を著した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨーガ学派」の意味・わかりやすい解説

ヨーガ学派
よーががくは
Yoga

インド六派哲学の一つ。ヨーガの起源はインダス文明にあるといわれるが、その行法が説かれているのは、仏教以後の中期のウパニシャッド(『カタ』などの書)からである。サーンキヤ学派と思想的には深い関係を有し、その二元論的思想を共有する。この派の開祖をヒランヤガルバ(金胎(こんたい)神)に帰する伝承もあるが、通常はパタンジャリが開祖で、根本経典『ヨーガ・スートラ』を著したといわれる。3~5世紀ころにできたといわれるこの書は、仏教などの影響をも受けながら、ヨーガの体系をまとめたものである。これにはブヤーサVyāsa(5~6世紀)の注釈『バーシュヤ』、バーチャスパティ・ミシュラ(9世紀)の復注『タットバ・バイシャーラディー』、ボージャ王(11世紀)の注釈『ラージャ・マールタンダ』、ビジュニヤーナビクシュ(16世紀)の注釈『ヨーガ・バールティカ』などがある。『ヨーガ・スートラ』は、最初にヨーガを心の働きの停止と定義し、このときに観照者は真の霊魂プルシャ(霊我(れいが))の本性に安住するという。ついで心の働きを説明し、修行の方法を説くが、それはヨーガの八支にまとめられる。八支とは、禁戒、勧戒(かんかい)、坐法(ざほう)、呼吸の抑制、感官の制御、執持(しゅうじ)(集中)、静慮(じょうりょ)、三昧(さんまい)である。禁戒とは不殺生(ふせっしょう)、真実、不偸盗(ふちゅうとう)、貞潔、無所得の五戒。勧戒とは潔斎(けっさい)、満足、苦行、読誦(どくじゅ)、至上神への帰依(きえ)の五つ。これらを守って息を調え感官を制御し、心の集中、統一を行い、最後に、心の働きとは別な霊我の存在を知り、霊我の本性に安立することを解脱(げだつ)(独存)とする。

[村上真完]

『岸本英夫著『宗教神秘主義』(1958・大明堂)』『松尾義海著『ヨーガ根本聖典』(『世界の名著1』所収・1969・中央公論社)』『本多恵著『ヨーガ書註解』(1978・平楽寺書店)』

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百科事典マイペディア 「ヨーガ学派」の意味・わかりやすい解説

ヨーガ学派【ヨーガがくは】

インドの六派哲学の一つ。サンスクリットでパータンジャラPatanjala。ヨーガの修行によって解脱(げだつ)に到達することを教える学派。根本聖典《ヨーガ・スートラYoga-sutra》はパタンジャリの作と伝える。ヨーガ学派の形而上学説には仏教の影響も認められるが,またサーンキヤ学派のそれとほぼ同じで,最高神(イーシュバラ)を認める点などが異なっている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヨーガ学派」の意味・わかりやすい解説

ヨーガ学派
ヨーガがくは
Yoga

インドの正統バラモン系統の哲学派の一つ。ヨーガの修行によって解脱に達することを教える学派。パタンジャリに帰せられる『ヨーガ・スートラ』を根本経典とする。この学派の思想には,仏教の影響もあり,形而上学説はサーンキヤ学派のものと概して同じであるが,一個の霊魂としての最高神を認める点を異にしている。心の作用を止滅するためには制戒 yama,内制 niyamaを実践し,正しい坐法 āsanaで坐し,調息 prāṇāyāmaにより呼吸を整え,制感 pratyāhāraによって感覚器官を制御し,総持 dhāraṇāにより心を一ヵ所に結び,静慮 dhyānaによって念じる対象と一体となり,三昧 samādhiによって対象のみが輝いて心は空のようになる。そして,対象に完全に束縛されず,心作用の余力を滅し去った状態を真のヨーガという。

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世界大百科事典(旧版)内のヨーガ学派の言及

【インド哲学】より

…(1)サーンキヤ学派 宇宙の根本原理として,純粋に精神的原理プルシャと物質的原理プラクリティという2種を想定し,現象世界を説明しようとする二元論である。(2)ヨーガ学派 サーンキヤ学派の姉妹学派であるが,この学派の本領はヨーガの実修によって精神統一を実現し,解脱を達成するところにある。(3)ニヤーヤ学派 この派の特徴はニヤーヤすなわち論理学と認識論にあり,正しい知識根拠として,直接知,推理,類比,証言の4種を主張した。…

【解脱】より

…その真実の知を仏教では悟り(ボーディbodhi,菩提(ぼだい),覚(かく))といい,それを得た人をブッダbuddha(仏陀,覚者)といい,悟りの境地をニルバーナnirvāṇa(涅槃(ねはん))という。 仏教以降に出た諸派の解脱観については,たとえばサーンキヤ学派,ヨーガ学派は,自己の本体であるプルシャpuruṣa(純粋精神)を,身体(ふつうの意味での意識も含む)や外界など物質的なものから完全に区別して知ること(区別知,ビベーカviveka)によって,純粋精神が物質的なものから完全に孤立すること(独存(どくそん),カイバルヤkaivalya)が解脱であるとし,ベーダーンタ学派は,自己の本体であるアートマンātman(我(が))が実は宇宙の本体であるブラフマンbrahman(梵)と同一であると明らかに知ること(〈明〉)によって解脱が得られるとするが,いずれにしても,真実の知によって解脱が得られるとする点では,基本的に上述の仏教の考え方と軌を一にする。悟り【宮元 啓一】。…

【六派哲学】より

…(3)サーンキヤ学派の哲学 六派哲学のなかでは最も起源が古く,精神原理(プルシャ)と非精神原理(プラクリティ)の二元論を主張し,しばしばシバ派の教学体系づくりに利用された。ヨーガ学派の姉妹学派といわれる。異説が種々あるが,古典サーンキヤ説と呼ばれるものの根本典籍は,4世紀ころにイーシュバラクリシュナが作った《サーンキヤ・カーリカー》である。…

※「ヨーガ学派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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