翻訳|radium
周期表第2族に属し、アルカリ土類金属元素の一つ。代表的な放射性元素である。
1898年にフランスのキュリー夫妻によってポロニウムとともにウラン鉱石から発見された。放射性元素として最初のものであり、そのときの分離確認の方法は、放射化学分析の最初の古典的実例でもある。ラジウムの名称は、放射線を意味するラテン語radiusにちなんだものである。放射能の発見はウランについて初めてなされたものであるが、ウランよりはるかに強い放射能をもつラジウムの発見は放射能に関する本格的研究の端緒となった。
[鳥居泰男]
天然には、アクチニウム系列のラジウム223(アクチニウムX、AcX)、トリウム系列のラジウム224(トリウムX、ThX)、ウラン・ラジウム系列のラジウム226、トリウム系列のラジウム228(メソトリウム1、MsTh1)の4種の同位体が存在する。キュリー夫妻によって発見されたものはラジウム226で、単にラジウムというときはこれをさすことが多い。これは同位体中もっとも重要なもので、すべてのウラン鉱石中に含まれており、たとえばピッチブレンド1トン中には約200ミリグラム存在する。
[鳥居泰男]
白色の光沢をもつ金属。バリウムに似ているがバリウムより揮発性が大きい。空気中に置くと表面は黒化する。水と反応して水酸化ラジウムとなり水素を発生する。酸素に触れれば、酸化物となる。一般的にほかのアルカリ土類金属元素と類似の性質を示すといえるが、それらより激しい。炎色反応は紅色。
[鳥居泰男]
ラジウム226は半減期1590年で、放射能の理想的な標準として用いられる。なおγ(ガンマ)線源として医療や工業的ラジオグラフィーなどに用いられてきたが、最近ではほかの安価な人工放射性同位体が用いられるようになっている。
[鳥居泰男]
ラジウム
元素記号 Ra
原子番号 88
原子量 226.0254
融点 700℃
沸点 1140℃
比重 5
結晶系 立方
元素存在度 海水 70×10-9μg/dm3
Ra.原子番号88の元素.電子配置[Rn]7s2の周期表2族アルカリ土類金属元素に属する天然放射性元素.安定同位体のない元素のため,原子量が与えられていない.質量数201~234の同位体が知られている.1898年P. and M. Curie(キュリー)夫妻により発見された.元素名はラテン語のradius(光線)からキュリー夫妻によって命名された.
天然には4種の核種が存在するが,ウラン崩壊系列に属する 226Ra の半減期がもっとも長く1.600×103 y で,4.871 MeV のα粒子を放出して 222Rn となる.14C を放出して 212Pb となる崩壊形式(分岐率3×10-9 %)も報告されている.銀白色の金属.空気中で酸化されて表面は黒化する.密度5.0 g cm-3(25 ℃).融点700 ℃,沸点1140 ℃.第一イオン化エネルギー5.279 eV.通常の化合物中の酸化数2.水,酸に溶けて水素を発生する.アルカリ土類金属中もっとも化学的に活性である.硫酸ラジウムはきわめて水に難溶.ウラン精製の副産物として製造されるが,通常,塩化物または臭化物として取り扱われている.人工放射性同位元素がつくられるようになるまでは,γ線源,α線源として用いられた.夜光時計の塗料として,硫化亜鉛との混合物が用いられていたが,放射線障害のため現在は使用されていない.かつての放射能の単位1キュリーはRa 1 g の放射能をもとに崩壊数3.70×1010/s と定められていたが,現在は毎秒崩壊数そのものが単位(ベクレル,Bq)となっている.放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令「同位元素の数量等を定める件」(平成12年)によれば,226Ra 化合物の排気中の濃度限度4×10-8 Bq cm-3,排水中の濃度限度2×10-3 Bq cm-3 で,60Co,137Cs よりはるかに厳しい.[CAS 7440-14-4]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
周期表の第ⅡA族に属するアルカリ土類金属の一つで,放射性元素。キュリー夫妻は1898年ウランの鉱石ピッチブレンドの中にバリウムとよく似た性質をもち,著しい放射能を示す元素が微量に存在することを発見し,これをラテン語のradius(放射光線)からラジウムと名づけた。その後ピッチブレンドのほかカルノー石などウラン鉱石中に,つねに微量に含まれることがわかった。バリウムとともに分離し,分別結晶して精製したラジウム塩の水溶液を水銀電極を用いて電解してアマルガムを得,これを蒸留して水銀を除くと,銀白色の単体金属が得られる。アルカリ土類金属中で最も反応しやすく,空気中ではたちまち酸化し,水とも激しく反応して水素を生ずる。天然のラジウムには,このウラン系列のもの(半減期1602年,α崩壊してラドンとなる)のほか,トリウム系列のもの(質量数228,半減期6.7年のメソトリウム1 MsTh1と,質量数224,半減期3.64日のトリウムX ThX),アクチニウム系列のもの(質量数223,半減期11.4日のアクチニウムX AcX)が存在し,そのほか質量数206~230の多数の人工同位体が知られている。放射線源として医療用,また夜光塗料などの製造に広く用いられてきたが,1950年ころから人工放射性元素の利用が普及したので,しだいに用いられなくなってきた。ラジウムの発見はその後の原子核・放射能の研究とその利用の重大な糸口となったものである。
執筆者:曽根 興三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…自然に放射線を放出するこれらの現象に対して,〈放射能〉ということばを提唱した。天然鉱石の放射能を調べる中で,強い放射能をもつ未知の元素の存在を予測し,98年,ピエールとの協同でウランの原鉱石ピッチブレンド中に新元素を発見し,その一つを祖国ポーランドにちなんでポロニウム,もう一つをラジウムと名づけて発表した。その過程で放射線を目印にした分析法など,放射化学の基本的方法の開発を行った。…
…98年以降妻マリーの放射能に関する研究に協力して,ウランの原鉱石ピッチブレンドの分析を行い,強い放射能をもつ新元素を発見した。これらの新元素は,ポロニウムとラジウムと名付けられ,98年の7月と9月にそれぞれ発表された。この発見は,1900年にパリで開かれた国際物理学会議でも報告され世界的に認められた。…
※「ラジウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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