翻訳|lymphocyte
ガラスやプラスチック面を遊走するとき,細胞小器官のなかで核を先頭にして移動するという運動形態学的共通性を備えた血液中の細胞群の総称で,免疫過程において重要な役割をはたす。脊椎動物では,胸腺由来のT細胞thymus derived cell(Tリンパ球),および鳥類のファブリキウス囊bursa fabriciiないし骨髄bone marrow由来のB細胞(Bリンパ球)に大別される。また大きさから,小リンパ球(直径6~8μm,成熟リンパ球)と大リンパ球(直径8~16μm,小リンパ球の幼若型あるいは若返り型)に分類される。無脊椎動物にも,脊椎動物のT細胞に当たるリンパ球が,新口動物では棘皮(きよくひ)動物以上に,旧口動物では環形動物などに見いだされている。
生体内のリンパ球は絶えず増殖し,再循環を繰り返す動的な細胞群であるが,それを一所へ集めるならば,肝臓,脳に次ぐ大きい器官となる。その総数は成人で2×1012個であり,T,B細胞はほぼ同数である。ただし,T細胞のほうがB細胞より活発に再循環を繰り返すので,末梢血中T細胞はリンパ球の90%を占めている。休止期リンパ球は細胞として最も特徴のない姿を示し,リソソーム顆粒のほかには,特別な顆粒やその他の構造をもっていない。リンパ球はリンパ組織において増殖し,リンパ液から血中へ動員されて体内を循環し,再び胸腺皮質を除くリンパ組織へ再循環を繰り返す。この間,消化管粘膜固有層から管内へ放出されたり,ステロイドなどのホルモンで障害されるなどして死滅していくものもある。したがって,その生存期間はさまざまであり,休止期の期間も一定していない。動物実験で休止期の期間が2週間以内のものを短命,それ以上のものを長命とするが,活発に増殖を行う胸腺皮質リンパ球(T細胞系)とリンパ節の胚中心内B細胞は短命群の代表である。
個々に差はあるにせよ,細胞表面のレセプター(受容体)と,これに適合した抗原などのリガンドとの反応により,容易に細胞周期に入って増殖することも,リンパ球の一つの特徴である。この抗原を特異的に認識し結合するリンパ球表面の受容体は,B細胞では抗体である。しかし,T細胞表面のそれは,抗体の抗原結合部位と共通の抗原構造をもったペプチド(イデオタイプidiotype)を含む構造である。したがって,少なくとも一定の成熟段階以後のリンパ球では,T,B細胞群とも,その表面に抗原と特異的に結合できるレセプターを備えている点も共通である。
リンパ球は造血系の幹細胞に由来するが,赤血球,顆粒白血球,単球および巨核球の各系に共通な幹細胞(造血幹細胞)と分かれたのち,T,B細胞系に分化する。哺乳類では幹細胞は骨髄にとどまる。
齧歯(げつし)類やヒトにおいて,骨髄内の前胸腺リンパ球は血中に入って胸腺に至り,その皮質で胸腺リンパ球となり,増殖しながら胸腺髄質に行き,ここで機能的に分化を始める。機能分化を始めたT細胞サブセットは,脾臓,リンパ節,パイエル板などの末梢リンパ組織へと移り,体内を循環しつつ,そこで増殖する。分化をとげたT細胞は,それぞれ表面抗原の組合せも異なり,機能も別々のサブセットに分かれるが,おもなものはヘルパーhelper,サプレッサーsuppressor,サイトトキシックcytotoxicまたはキラーkillerの各T細胞である。B細胞のほうは,骨髄内においてまず細胞質内にIgMが検出される前B細胞に分化したのち,細胞表面にだけIgMが検出されるB細胞になり,末梢リンパ組織へと動員されていく。B細胞がやや成熟すると,細胞表面にIgDが出現し,ついでIgG,IgE,IgAもそれぞれIgDとともに表面に陽性となり,これら表面にIgM,IgG,IgE,IgAをもったものは,さらに成熟すると,表面の免疫グロブリンが検出されなくなり,代わって,細胞質内で活発に合成される各免疫グロブリンを分泌する抗体産生細胞すなわち遊走能を失った形質細胞となる。腫瘍化や生体外で培養したときのような特殊な条件を除き,表面IgG陽性細胞はIgG産生形質細胞にのみ成熟し,他のクラスの表面免疫グロブリン陽性B細胞でも同様である。これらのB細胞系における成熟・分化段階に伴う免疫グロブリンクラスの出現様式は,免疫グロブリンの構造遺伝子の配列と発現機構によってきまることが明らかにされている。
末梢血あるいは末梢リンパ組織内のT,B細胞は,細胞表面抗原,受容体,その他の性状で鑑別・分離することができる。リンパ球に限れば,T,B細胞でそれぞれ異なり,一方にのみ検出される特異抗原がいくつか見いだされている。また,光学顕微鏡で表面免疫グロブリン陽性なのはB細胞のみである。ヒトの場合,ほとんどすべての成熟T細胞は表面にヒツジの赤血球と結合する受容体をもっており,他方,B細胞は抗原と結合した補体第三成分に対する受容体をもっている。また,B細胞はナイロン繊維に結合するが,T細胞は特殊なものを除き結合しない。したがって,リンパ球の浮遊液を,この繊維をつめたカラムに通すと,T細胞のみが通過してくる。そのあとで,カラムを洗えばB細胞が大半を占める浮遊液も得られる。また,T,B細胞特有の表面抗原に対する抗体をそれぞれ別のリンパ球浮遊液に加え,さらにこれに補体を加えると,抗体と結合した細胞のみ融解するから,加えた抗体により,T,B細胞のいずれかを比較的高い純度でとり出すこともできる。しかし,T,B細胞のとくにそのサブセットの機能や産生物を純粋な形でとらえたいときには,機能を失っていないT,B細胞(またはそれらの腫瘍細胞)の単一細胞から,生体外で培養,増殖させたクローンを用いて実験が行われている。
B細胞系が産生する免疫グロブリンに対応し,T細胞はさまざまな構造と機能を異にする,糖タンパク質ないしペプチドを合成・放出し,細胞間相互作用に重要な役割を担っている。これらのリンホカインには,リンパ球以外の血球の増殖,分化因子,マクロファージ賦活因子,γ-インターフェロンなどが含まれている。これとともに,ヘルパーT細胞はB細胞あるいはT細胞自体に作用する増殖因子および分化因子を,サプレッサーT細胞はT,B細胞の増殖を抑制するサプレッサー因子を産生して,免疫応答の調節に当たるほか,サイトトキシックT細胞は移植免疫や腫瘍免疫などの細胞性免疫応答の終局的な役割を演ずる細胞障害因子も産生している。また,上記T細胞サブセットが産生する因子には,それぞれ抗原特異的なものと,抗原非特異的なものとがある。このなかで,ヘルパーT細胞が産生するT細胞増殖因子は,インターロイキン-2 interleukin-2(IL-2)とも呼ばれ,ヒトではその一次構造も決められており,分子量1万5000の糖タンパク質重合体である。
休止期T細胞がその表面の抗原受容体に対応する抗原と反応すると,細胞周期のG1期に入り,ここで増殖因子と反応する受容体を合成し,これが細胞表面に出て,増殖因子と反応すると,ここでG1期のT細胞は,DNA合成を始めるS期に入る。その間ほぼ18時間を要する。G1期に入ったT細胞は,大きくなり,核小体が明りょうかつ大きくなるとともに細胞質内にリボソームが充満する。このように大型化したT細胞がG2期を経て細胞分裂期(M期)へ入るわけであるが,G1期からG2期にかけて,活発にリンホカインを合成する。B細胞でもほぼ同様の経過をとって分裂・増殖する。これらの反応には,いずれもマクロファージが産生するインターロイキン-1(IL-1)の助けが必要である。
先天的要因あるいはウイルス感染や免疫抑制剤の投与により,リンパ球の総体的な,あるいはT,B細胞系のサブセットの形成が完全にあるいは著しく抑制されると,さまざまな形の先天性または後天性免疫不全を招く。リンパ球が腫瘍化して無制限に増殖すると,悪性リンパ腫またはリンパ性白血病となる。
→免疫
執筆者:花岡 正男
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白血球の一種で、免疫能を担当する細胞。ギムザ染色では、好中球よりやや小形の円い細胞で、原形質は薄青色、核周辺は明るい。核は濃く染まるが、細く鋭い切れ込みがあるものが多い。小リンパ球、大リンパ球の別があるが、顆粒(かりゅう)球のようにペルオキシダーゼは含有しない。運動能は白血球のうちでいちばん弱く、貪食(どんしょく)能力は通常はみられない。血液1立方ミリメートル中に1500~2500個ある。
リンパ球は骨髄内で造血幹細胞からつくられてリンパ芽球となり、成熟して一部は胸腺(きょうせん)を通ってTリンパ球となり、胸腺とリンパ節の傍皮質領域に分布する。また一部はブルザ相当器官(おそらく腸管リンパ節)を通ってBリンパ球となり、リンパ節では濾胞(ろほう)、髄質に分布する。血液中ではTリンパ球が75%で、ヒツジの赤血球とロゼットを形成するところから判別される。残りの25%はBリンパ球で、抗原レセプターの存在から判別される。また、どちらの性格ももたないものはナルNull細胞といい、免疫学的に機能のない幼若リンパ球である。Bリンパ球は必要に応じて形質細胞などの分泌細胞に変化して免疫グロブリン(抗体グロブリン)を分泌して侵入する抗原に立ち向かう(体液性免疫)。Tリンパ球は、ツベルクリン反応のような遅延型アレルギー反応、移植免疫、目標となる細胞を攻撃する作用などをもち、かつBリンパ球の機能を調節する働きももつ(細胞性免疫)。生体にとって有害な抗原物質が侵入すると、リンパ球は分裂して数を増しながらTリンパ球とBリンパ球が協力して抗原物質を無害なものにする。これに顆粒球、単球(マクロファージ)も貪食能をもって協力しあっている。
[伊藤健次郎]
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…骨髄で産生され,独特の運動性をもち,貪食能も強い。(3)リンパ球lymphocyte 血液1mm3あたり1500~4000個あって,白血球の約35%を占める。大きさに大中小があり,骨髄のほかリンパ節や脾臓でも産生される。…
…最下等の脊椎動物である無顎類(円口類)では,明確な胸腺は認められない。無顎類のうち,ヤツメウナギの幼生では,鰓囊上皮域にリンパ球の小集団があるが,これが原始胸腺であるとは断定できない。【村松 繁】
[ヒトの胸腺]
ヒトの胸腺は胸骨の直後,心臓の前上方に位置する扁平な器官で,左右両葉に分かれるが,正中線でたがいに癒着している。…
…無脊椎動物の血球は一定の細胞回転をとらずランダムに産生されるが,一部の進化した動物群では脊椎動物の造血に類似した細胞回転のあることが知られている。鳥類までの脊椎動物の血球は,最も未分化な円口目メクラウナギ類を除き,赤血球,リンパ球と顆粒(かりゆう)球(この二つを合わせて白血球ともいう)および栓球の4種類が区別される。形態学的に,これらの動物では赤血球と栓球はともに有核細胞で,ともに血管内で産生される。…
…抗原が生体に侵入すると,免疫系の中心をなす種々のリンパ球が刺激されて増殖し,種々の機能を現すようになり,免疫が成立する。抗原刺激に対するこのような免疫応答は,その抗原に特異的であり,ひとつひとつの抗原に対しては,それぞれきわめて限定された少数のリンパ球のみが反応する。…
…無脊椎動物の白血球には,ホシムシ類の壺状体,環形動物の含糸細胞,甲殻類の爆発細胞,棘皮(きよくひ)動物の結晶構造など,きわめて特徴的な形態を示すものがある。脊椎動物の広義の白血球は,顆粒球,単球,リンパ球,形質球など,赤血球と血小板を除いた血中成分をいうが,狭義には顆粒球と単球をいう。ともに血管外の造血器(組織)内の幼若細胞より作られ,比較的幼若型で血管内に入り,全身に散布される。…
…免疫応答に関与する細胞の総称。抗原の特異性に対応した,いわゆる特異的免疫を分担しているのはリンパ球であるが,非特異的免疫はおもにマクロファージとナチュラルキラー細胞の役割である。これらの細胞系は独立に働くこともあるが,相互作用によって機能を発現することが多い。…
※「リンパ球」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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