リン酸カルシウム(読み)りんさんカルシウム(その他表記)calcium phosphate

改訂新版 世界大百科事典 「リン酸カルシウム」の意味・わかりやすい解説

リン(燐)酸カルシウム (りんさんカルシウム)
calcium phosphate

化学式Ca3(PO42リン酸カルシウムまたは第三リン酸カルシウムとも呼ばれる。リン灰石として天然に産出し,また土壌中に広く分布して含まれ,植物の生長に必須の成分である。脊椎動物の骨や歯の主成分にもなっている。純粋なものを得るには,リン酸水素二ナトリウムNa2HPO4水溶液にカルシウム塩の水溶液とアンモニア水を加え,生じた白色沈殿をよく洗って乾燥する。

 2HPO42⁻+3Ca2⁺+2NH3─→Ca3(PO42+2NH4

白色の粉末。比重3.14,融点1670℃。水には難溶で,100gの水に2.5mgしか溶けない。無水和物のほか,1,2,5個の結晶水をもつものも知られている。リン酸カルシウムにはこのほか,リン酸一水素カルシウム(第二リン酸カルシウム)CaHPO4,リン酸二水素カルシウム(第一リン酸カルシウム)Ca(H2PO42の2種がある。前者は,リン酸水素二ナトリウム水溶液とカルシウム塩の中性水溶液を混合すると,やはり白色の沈殿として生ずる。

 HPO42⁻+Ca2⁺─→CaHPO4

これを水中に放置しておくと,無色・鱗片状のきらきらした2水和物の結晶となる。比重2.31。熱すると分解し,水には難溶だがリン酸三カルシウムよりやや溶ける(100gの水に約20mg)。また酸にはよく溶ける。後者はリン酸三カルシウムを硫酸またはリン酸と反応させると生ずる。

 Ca3(PO42+2H2SO4─→Ca(H2PO42+2CaSO4

 Ca3(PO42+4H3PO4─→3Ca(H2PO42

硫酸を反応させる場合はまず生ずる硫酸カルシウムの沈殿を除いてから,ろ液を濃縮すると無色の結晶が生ずる。他のリン酸カルシウムより水にずっと易溶(30℃で100gの水に1.8g)で,ふつう1水和物であるが109℃で無水和物になり,152℃で融解してメタリン酸カルシウムCa(PO32に変わる。比重2.22。リン酸二水素カルシウムは水溶性のため肥料として重要で,過リン酸石灰と呼ばれるものはこの塩と硫酸カルシウムの混合物,また重過リン酸石灰は主としてこの塩から成るリン酸肥料である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リン酸カルシウム」の意味・わかりやすい解説

リン酸カルシウム
りんさんかるしうむ
calcium phosphate

リン酸の三カルシウム塩。リン酸三カルシウム、第三リン酸カルシウムともいう。なお、一般には水素塩をも含めてリン酸カルシウムとよぶことがある。

 天然産鉱物としてはウィトロック石が知られているが、通常はフッ化物、塩化物または水酸化物との複塩の形で燐灰石(りんかいせき)として産出する。合成的には、硝酸カルシウムの水溶液とリン酸水素二ナトリウムの水溶液を70℃で反応させてつくられる。このとき1%程度のMg2+またはMn2+イオンを安定剤として加える。無色の結晶性物質でα(アルファ)、β(ベータ)の二つの変態がある。ウィトロック石および前述の合成物はいずれもβ型で、1180℃でα型に転移する。水に溶けないが、長時間水と接触していると徐々に加水分解を受け、不溶性の水酸化リン酸カルシウムCa5(PO4)3OHに変わる。エタノールエチルアルコール)、アセトンには溶けない。硫酸などの強酸と反応して可溶性のリン酸二水素カルシウム(第一リン酸カルシウム)に変わる。

  Ca3(PO4)2+2H2SO4=Ca(H2PO4)2
   +2CaSO4
 この種の反応は、リン鉱石を水溶性に変え肥料などを製造するのに利用される。

[鳥居泰男]


リン酸カルシウム(データノート)
りんさんかるしうむでーたのーと

リン酸カルシウム
  Ca3(PO4)2
 式量  310.2
 融点  1670℃
 沸点  ―
 比重  3.14
 結晶系 六方

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「リン酸カルシウム」の解説

リン酸カルシウム
リンサンカルシウム
calcium phosphate

Ca3(PO4)2(310.18).略号TCP.リン酸三カルシウム(tricalcium phosphate),第三リン酸カルシウム,リン酸三石灰ともよばれる.ほかに,水素塩のリン酸水素カルシウム CaHPO4(略号DCP)[CAS 7757-93-9]とリン酸二水素カルシウムCa(H2PO4)2(略号MCP)[CAS 7758-23-8]がある.リン酸三カルシウムはりん灰石(アパタイト)の主成分として天然に存在する.植物の生育に必要で,また脊椎動物の骨や歯を構成する主要物質である.リン酸三カルシウムは,リン酸塩水溶液に水酸化カルシウム懸濁液を加えて沈殿させるか,カルシウム塩CaCl2などの水溶液にリン酸水素二ナトリウムまたはリン酸水素二アンモニウムをアンモニア水とともに加える,リン酸水素カリウム水溶液に過剰の硝酸カルシウムを加えるなどの方法によって得られる.無色,無定形の粉末で,α型(単斜晶系)とβ型(りょう面体晶系),高温・高圧相のγ型の3種類の変態があり,β型は1125 ℃ 以下で安定,α型は高温相で1125~1430 ℃ で安定,常温では準安定状態にある.β型は密度3.14 g cm-3.融点1670 ℃.一,二,三水和物も知られている.水に不溶,エタノール,アセトンにも不溶.陶器のうわぐすり,オパールガラス材料,リン酸塩ガラス材料,研磨用歯磨き成分,砂糖・塩の凝結防止剤,カルシウム補強用医薬品,食品・家畜飼料添加物などとして使用される.リン酸カルシウムは生体適合性にすぐれているので,人工骨・歯根材料,骨補填材として用いられる.軟磁器(ボーンチャイナ)の主成分でもある.リン酸カルシウムとDNAを共沈させると,細胞が取り込む効率が高いので,遺伝子導入の目的で遺伝子工学に利用される.[CAS 7758-87-4]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リン酸カルシウム」の意味・わかりやすい解説

リン酸カルシウム
リンさんカルシウム
calcium phosphate

(1) リン酸三カルシウム  Ca3(PO4)2 。第三リン酸カルシウムともいう。リン灰石の成分。また脊椎動物の骨,歯の成分として広く天然界に産出する。無色無定形物質で,融点 1670℃,比重 3.14。水,アルコールに不溶,希酸に可溶。肥料,リン酸,リン塩の製造,研磨材,歯磨き粉,陶磁器の製造,砂糖の脱色などに使用される。 (2) リン酸水素カルシウム  CaHPO4 。第二リン酸カルシウムともいう。無水塩は無色三斜晶系結晶。比重 2.89。水に不溶,酸に可溶。2水塩も知られている。比重 2.31。主として飼料に使われるが,穀物その他の食品にも添加される。ガラスの製造,歯科材料にも用いられる。 (3) リン酸二水素カルシウム  Ca(H2PO4)2 。第一リン酸カルシウムともいう。1水塩が普通で,無色の三斜晶系板状晶。比重 2.22℃。 100℃で脱水し,152℃で融解してメタリン酸カルシウム Ca(PO3)2 となる。水溶性のため肥料として重要で,過リン酸石灰の主成分である。比較的純粋なものはベーキングパウダー,食品などのミネラル強化用に用いられる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「リン酸カルシウム」の意味・わかりやすい解説

リン(燐)酸カルシウム【リンさんカルシウム】

(1)リン酸三カルシウムCa3(PO42 第三リン酸カルシウムとも。比重3.14,融点1670℃。白色の結晶。水に難溶。酸に可溶。天然にリン灰石として産し,また動物の骨,歯の主成物で,植物の生長にも必須。(2)リン酸水素カルシウムCaHPO4 第二リン酸カルシウムとも。比重2.31。無色の結晶。水に不溶,酸に可溶。医薬品,ガラスの製造に用いられ,工業的には石灰乳とリン酸とを反応させてつくる。(3)リン酸二水素カルシウムCa(H2PO42 第一リン酸カルシウムとも。比重2.22。無色の結晶。水に可溶のためリン酸肥料として重要で,重過リン酸石灰はこれを主成分としたもの。また過リン酸石灰はこれと硫酸カルシウムの混合物。栄養剤,家畜飼料の添加剤としても利用。
→関連項目インプラント乳白ガラス

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

栄養・生化学辞典 「リン酸カルシウム」の解説

リン酸カルシウム

 Ca3(PO4)2,CaHPO4,CaH4(PO4)2など.正リン酸カルシウムともいう.諸種の目的で使われるリン酸塩で,動物にカルシウム,リンという二つの重要な栄養素を供給する塩でもある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android