翻訳|loess
第四紀の氷期に大陸氷河の周辺地域や砂漠地域から風で運ばれて陸上に厚く堆積した,淡黄色ないし灰黄色を呈する非固結の風成堆積物。黄土(おうど)/(こうど)ともいう。中国の北部・東北部,中央アジア,ヨーロッパ・ロシア南部,中部ヨーロッパ,北アフリカ,北アメリカ中央部,アルゼンチン,ニュージーランドなどに広く分布し,世界の陸地表面の約10%をおおっている。日本でも福岡県の玄海砂丘や山口県安岡付近にレス状砂からなる古砂丘が存在している。レスという名称の起源は,〈軽くてさらさらしていること〉を意味するドイツ語のLoeseに由来し,最初はライン川流域地方で用いられていたが,1834年にC.ライエルによって英語に導入された。中国のレスは古くから黄土と呼ばれている。ヨーロッパや北アメリカのレスは,かつての大陸氷河周辺地域に分布しており,氷河によって運ばれた岩屑(がんせつ)のうち細粒部分が融氷水によって洗い出されて堆積したものが,冬の乾燥期に河床が干上がり,その上を吹く強い偏西風によって吹きあげられて周辺地域に再堆積したもので,氷成レスと呼ばれる。これに対して中国の黄土は西方のゴビ砂漠地帯が供給源とみなされ,砂漠レスと呼ばれている。
レスの粒径組成は風で選別されたためよくそろっており,直径0.005~0.1mmの細砂やシルトが大部分を占め,供給源から遠く離れるほど平均粒径が小さくなり,円磨度は増大する。鉱物組成は石英,方解石,長石などの軽鉱物に富み,そのほか雲母,角セン石,輝石,緑レン石などの重鉱物も含まれている。わずかに含まれる粘土鉱物の主体はイライトである。カルシウムやマグネシウムの炭酸塩に富み(CaCO3含量0~33%),希塩酸をかけると二酸化炭素を発生して発泡する。炭酸塩を除いた部分の化学組成は,SiO272~82%,Al2O36~10%,Fe2O31~6%,CaO0.8~1%,Na2O0~1%,K2O1~2%,P2O50.1~0.4%である。
レスの地層には,いったん溶解した炭酸塩が間隙(かんげき)内に二次的に再沈殿して生じた灰白色の結核が多数並んでいる場合があり,その形が人形に似ているため黄土人形とか黄土小僧などと呼ばれている。レスは,それを構成する鉱物粒子が角ばっているため,微細な間隙に富み(間隙率40~50%),そのため透水性がきわめてよいので停滞水層はほとんど形成されず,したがってレス地帯では井戸水が得にくい。また細粒物質からなり,凝集性が大きいので,レス層は崩壊しにくい。また垂直に発達した亀裂にそって浸食されるので,河岸では垂直に切り立った崖を形成する(黄土峡)。レス中にはカタツムリの化石やダチョウの卵の化石のほかに,マンモス,ケサイ,オオツノシカ,長角バイソン,ハイエナ,スイギュウ,ラクダなどの寒冷・乾燥気候を指示する大型哺乳動物化石を産し,これらはレス動物群または黄土動物群と呼ばれている。またレス中には,堆積が中断した間氷期や亜間氷期に生成した土壌が埋没古土壌としてなん枚もはさまれている。例えば,黄土層の模式地である陝西省洛川県黒木溝では,厚さ150mにも達する黄土層中に少なくとも19枚の古土壌が存在する。このような古土壌中の花粉分析の結果はカラマツ,カバノキなどを含む森林ステップあるいは草本類を主とする乾燥した寒冷ステップの植物群であったことを示している。さらに最近では放射性炭素,古地磁気測定,熱ルミネセンス法などの新しい研究手段によりレスの堆積年代が明らかにされつつある。
→古土壌
執筆者:永塚 鎮男
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…ブローアウトは径数百m以下,深さは1m程度の円ないし楕円形のデフレーションによる凹地で,風食凹地または風食窪と呼ばれる。風による堆積地形としては砂原,砂丘,レスがある。砂原は風紋以外起伏の見られない砂の平原である。…
…また,跳躍によって移動する粒子が地表面に衝突するとき,表面匍行が少ないと除去量よりも堆積量が増し,付加堆積が進む。こうして砂丘やレスloessが形成される。砂丘では山形地形の風下側斜面において落下堆積となだれを繰り返す侵入堆積によって砂丘は前進する。…
※「レス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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