改訂新版 世界大百科事典 「古土壌」の意味・わかりやすい解説
古土壌 (こどじょう)
paleosol
完新世(約1万年前から現在まで)より古い地質時代に生成され,現在の環境の影響をまったく受けていないか,あるいは過去の環境によって生じた特性が変化を受けつつある土壌。これに対して完新世の自然環境下で生成している土壌を現世土壌という。第三紀より古い地質時代に生成した土壌はほとんど浸食によって失われてしまっているので,実際の古土壌は第三紀から第四紀更新世にわたるいずれかの時代に生成したものが多い。地表下に埋没している場合と地表に露出している場合とがあり,その出現様式によってつぎのように区別される。(1)化石土壌fossil soil 埋没古土壌ともいわれ,火山灰,溶岩流,レス,氷河堆積物,飛砂,はんらん土砂,山崩れ,地すべりなどによる新しい被覆層の下に埋没され,地表の自然環境から遮断され,したがって土壌生成作用が中断し,生物の化石のように地層中に保存された古土壌。ただし埋没土壌のすべてが古土壌とは限らず,完新世に生成した土壌が埋没された場合は古土壌ではない。(2)レリック土壌relic soil 地表に露出し生物圏内にとどまっているが,現在の自然環境とは異なる過去の条件下で生成し,当時の特徴を残している古土壌。埋没古土壌の被覆層が削剝されて地表に再び露出した再露出古土壌の場合もある。レリック土壌は過去と現在の異なる自然環境の影響が同一の土壌断面内に重複して反映されている多元土壌である場合が多い。これに対して同一の自然環境で生成した土壌は単元土壌といわれ,現世土壌および化石土壌の大部分はこれに属する。複合土壌というのは二つ以上の母材にわたって土壌断面が発達したもので,多元土壌の場合もあるが単元土壌のこともあり,古土壌とは限らない。
古土壌は地層を対比するための鍵層として利用されるだけでなく,その土壌型を同定することにより過去の自然環境を復元するための有効な手段となっている。日本の埋没古土壌の代表例として立川ローム層中にみられる2枚の暗色帯(黒バンド)があり,上方暗色帯は今から17000±400年前,下方暗色帯は今から24000±900年前という14C年代測定値が得られている。また日本の赤色土の大部分は更新世の高温期に生成した古土壌である。北海道南部の〈若返りした褐色森林土〉は最終氷期のポドゾル化作用の痕跡をとどめたレリック土壌であり,そのほか大雪山地域のレリック永久凍土層,十勝平野,鳥取などの古砂丘中の埋没古土壌などが知られている。
執筆者:永塚 鎮男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報