日本大百科全書(ニッポニカ)「レッド・データ・ブック」の解説
レッド・データ・ブック
れっどでーたぶっく
Red Data Book
絶滅の危機に瀕(ひん)している野生生物の現状を記録した資料集。
野生生物を保護し、種の絶滅を防ぐには、まずそれぞれの種の置かれている生息の現状を科学的に把握しなければならない。そのため国際自然保護連合(IUCN)が、世界的な規模で絶滅のおそれのある野生の動植物の種を選び出し、その現状を明らかにするために編集・発行したのが『レッド・データ・ブック』である。2012年版のレッド・リスト(レッド・データ・ブックの基礎となるリスト)には、2万0219種の絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)が記載されている。
『レッド・データ・ブック』の初版は1966年発行で、絶滅の危機に瀕している野生動植物種の国際間の商取引を規制するワシントン条約(CITES(サイテス))など各種の国際条約や、各国政府が保護施策を作成するための基礎資料として広く活用されている。初版発行時、種が直面する危険度により(1)絶滅したものExtinct、(2)絶滅に瀕しているものEndangered、(3)危険な状態にあるものVulnerable、(4)希少なものRare、(5)不確かなものIndeterminate、(6)危機を免れたものOut of Dangerの六つのカテゴリーを設けた。しかし、その後(7)データ不足Insufficiently Know、また無脊椎(むせきつい)動物編の編集にあたって、上記のカテゴリーのほかに、無脊椎動物に限り(8)商取引によって脅かされているものCommercially Threatened、(9)商取引によって脅かされている集団Threatened Community、(10)商取引によって脅かされている現象Threatened Phenomenonの区分を加えた。
イギリスなど欧米諸国ではIUCNのレッド・データ・ブックに準じた国内版レッド・データ・ブックを作成している。日本でも、1991年(平成3)に環境庁(現、環境省)より、種の保存を図るため野生生物全般を対象とした絶滅のおそれのある種を集めた日本版レッド・データ・ブックが発行された。
その後、IUCNはカテゴリー分けとその基準の全面改定を行い、2000年以降のレッド・リストでは
(1)絶滅Extinct(EX) すでに絶滅したと考えられる種
(2)野生絶滅Extinct in the Wild(EW) 飼育・栽培下でのみ存続している種
(3)絶滅危惧種Threatened
(a)絶滅危惧ⅠA類Critically Endangered(CR) ごく近い将来、野生での絶滅の危険性がきわめて高いもの
(b)絶滅危惧ⅠB類Endangered(EN) ⅠA類ほどではないが、近い将来、野生での絶滅の危険性が高いもの
(c)絶滅危惧Ⅱ類Vulnerable(VU) 絶滅の危険が増大している種
(4)準絶滅危惧Near Threatened(NT) 現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては上位ランクに移行するおそれのある種
(5)軽度懸念Least Concern(LC) 上記のいずれにも該当しない種。分布が広いもの、個体数の多い種が含まれる
(6)情報不足Data Deficient(DD) 評価するための情報が不足している種
と区分している。
これを受け、見直しを行った日本版レッド・リストは、IUCNの新カテゴリーを基にした日本版新カテゴリーを採用した。日本では数値的に評価不可能な種も多いので、定性的要件と定量的要件を組み合わせた新たなカテゴリーを策定している。また、無脊椎動物、維管束植物以外の植物については、絶滅危惧ⅠA類・ⅠB類を区別せず、絶滅危惧Ⅰ類としている。この日本版レッド・リストを基に、おおむね10年ごとに日本版レッド・データ・ブックは刊行されている。日本では絶滅危惧種に指定されると、その生物の保護が進むかというとそうでもない。レッド・リストは野生生物の保護を進めるために活用されることを目的につくられたもので、法的な規制力はなく、絶滅危惧種の保護は「種の保存法」によるところが大きい。なお、レッド・データ・ブックには環境省版のほか、水産庁や学会、都道府県、NGO作成のものがある。
[加瀬信雄]
『『レッドデータアニマルズ――日本絶滅危機動物図鑑』(1992・JICC出版局)』