ロケット推進剤(読み)ロケットすいしんざい(英語表記)rocket propellant

改訂新版 世界大百科事典 「ロケット推進剤」の意味・わかりやすい解説

ロケット推進剤 (ロケットすいしんざい)
rocket propellant

ロケット推進において反動としての推力を得るために噴射される物質。いわゆる液体ロケット固体ロケット(化学ロケットと総称する)では,推進剤は燃焼反応を通じて熱エネルギーを発生し噴射のエネルギー源ともなる。そのような可燃性化学物質あるいはその組合せである化学ロケット用推進剤を単に推薬ともいう。ここでは化学ロケットの推進剤について述べ,原子力ロケット,光子ロケット,電気ロケットの推進材についてはそれぞれの項目を参照されたい。

 気体,液体,固体のいずれでも,発熱反応が利用できるものは一応推薬の候補となるが,構造効率をよくする観点から気体は不適当である。液体と固体の場合,いずれについても単一物質の発熱反応を利用できるものがあり,液体ではモノプロペラント,固体では均質系と呼ばれる。もっともふつうには酸化剤と燃料を組み合わせて用い,液体と液体,固体と固体の組合せをそれぞれ液体推薬,固体推薬といい,また,液体と固体との組合せをハイブリッド推薬という(推薬をロケット燃料と通称することもあるが,厳密にはロケット燃料とは推薬の1成分である燃料を指す)。これらの組合せは必ずしも酸化剤,燃料それぞれ一種ずつとは限らず,とくに固体では数種の成分の混合物とするのがふつうで,これを混成系という。液体では一種ずつの組合せをバイプロペラントという。

 推薬として望ましい性質としては,比推力が大きいこと,密度が大きいこと,取扱いや保存が安全で容易なこと,安価で入手が容易なこと,安定に燃焼することなどである。

液体推薬としては,表に示す組合せが代表的である。表には真空中比推力の理論値(開口比40のノズル使用,実験値はこの95%程度の値),混合比(酸化剤/燃料),平均密度を示してある。酸化剤に液体酸素,燃料に液体水素を用いる組合せは高い比推力値が得られるが,液体水素(パラ状態)は沸点20.3K,密度0.0708g/cm3という値が示すように,極低温でしかも低密度である点が取扱いならびに性能上の難点といえる。ただし総合評価として魅力は大きく,アメリカのスペースシャトルなど最新の打上げロケットの主力推薬となってきている。液体酸素と石油系燃料の組合せは,ともに安価であり,しかも組合せによる比推力も相当に高いので,大型の打上げロケットの第1段に使用される例が多い。四酸化二窒素とヒドラジン系燃料の組合せはともに常温で液体であり混合すれば直ちに自発着火する性質があるので,中,小型の宇宙用ロケット推薬として信頼性が高く多用されている。しかし両者ともに毒性が強いのが欠点である。ヒドラジン系燃料としてはヒドラジンと非対称ジメチルヒドラジンの混合物,あるいはモノメチルヒドラジンがふつうである。なお,ヒドラジンは単体として触媒に触れると発熱分解しガス(窒素,水素,アンモニア)を発生するので,モノプロペラントとして小型の制御エンジン用に重用されている。このほか酸化剤としては液体フッ素,燃料としては水素化ホウ素,ハイブリッドになるがベリリウムなどが注目されてきているが,毒性や腐食性など取扱い上の問題が多く実用はされていない。

固体推薬のうち,均質系推薬の代表例はダブルベース推薬である。これはニトロセルロースを,可塑剤としてのニトログリセリンと混合したもので,このほか安定剤や燃焼触媒など若干の助剤を加えてある。もっともふつうにはこれを圧伸して所定の断面形状をもつ推薬塊(グレイン)とするが,鋳型に注入して作るタイプもある。燃焼生成物に凝相成分がないので無煙火薬ともいう。

 現用の混成系推薬の主成分は,酸化剤としての過塩素酸アンモニウムの粉末,燃料としてのアルミ粉末,それにこれらをグレインにまとめ上げるための粘結剤(バインダー)である。バインダーは,それ自身燃料として優れた性質をもつとともにグレインに十分な機械的強度をもたせる性質を備えていなければならない。バインダーと粉末成分を安全に混ぜ合わせる必要上,バインダーは混合過程では液状であり,成型後固化する性質が望ましい。このため混合捏和(ねつか)過程では粘液状のバインダーの中間重合体(プリポリマー)が用いられ,さらにプリポリマー分子を結びつけ高分子化を進めるための架橋剤を加えてかくはん混合し,捏和後,型に流し込んで昇温し反応を進め固化させるような製造工程がとられる。

 混成系の代表的な成分構成は,バインダー(ポリブタジエン系)14%,アルミニウム18%,過塩素酸アンモニウム68%の比率で,開口比50のノズルを用い真空中比推力290s(理論値300s)の程度である。固体推薬の燃焼は表面が平行移動する形で進行し,この燃焼速度は圧力や表面に沿う流れによって影響されるが,代表例で圧力の影響を示せば,大気圧下で2mm/s,50atmで5mm/sの程度である。
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百科事典マイペディア 「ロケット推進剤」の意味・わかりやすい解説

ロケット推進剤【ロケットすいしんざい】

プロペラント,推薬とも。普通は化学系推進剤をさす。燃料の燃焼によって化学エネルギーを熱エネルギーに変え,これを燃焼によって生じたガスに伝えて運動エネルギーをもたせ,その噴出によって動力を得る。ロケット推進剤は,エネルギー源であると同時に運動エネルギー媒体であること,また燃焼に必要な酸素を酸化剤の形で推進剤自身が保有することが特色である。液体推進剤と固体推進剤とに大別される。前者は燃料と酸化剤を分離してタンクに貯蔵し,両者を一定の割合で燃焼室に送り込む。燃料としてはケロシン,アンモニア,ヒドラジン,液体水素など,酸化剤としては液体酸素,硝酸,過酸化水素などが使用される。固体推進剤には分子中に酸素と燃料要素を含むダブルベース推進剤と,燃料と酸化剤を混和したコンポジット推進剤とがある。ともに棒状に成形されるが,推力が燃焼面積に関係するので,終始一様な燃焼を行わせるため,中心に星形の穴をあけるなどの方法がとられる。
→関連項目燃料フリーラジカル推進剤ロケット(工学)

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