古文書の一様式。元服のとき烏帽子親(えぼしおや)がその子に命名する際に,自己の実名の1字を与え,その証拠に,狭義にはその1字のみを自身記して与えた文書。名字書出の一形式。一字状ともいう。1字の贈与は烏帽子父子の間だけでなく,主従の間にも行われ,血縁擬制のより強い絆とされ,家臣中のよりよい待遇とされ,一字拝領として家格の表徴ともなった。一字拝領とは,これを与えられた臣下から見た行為である。加冠の儀式が形式的にせよ主人の臨席の下に行われるのが本来の形である。1字を与え命名する風習は古くよりあったが,文書として現存する典型的なものには,将軍足利義晴自筆の〈晴〉のみを記し,御内書・添状を伴う折紙がある。将軍徳川氏にもうけつがれ,〈伊達家文書〉〈山内家文書〉等に現存する。また諸大名家中にも行われ,ことに毛利家萩藩家中には代々のものが多数伝存する。料紙は折紙,切紙,竪紙などがあって一定しない。添状を伴うか,一紙にまとめられて,〈一字〉〈加冠〉などの事書で始まるものもあり,1字,年月日差出(署名花押),充所(名字通称)よりなる。名字書出との区別は,1字のみと2字(名字)記載の形式の差であるが,1字は賜与するが,実際の命名にまでは関与しない形式的なものと,1字を含む2字(あらかじめ考勘した名字)を命名してやる名つけの風を示すものがあるようである。明治維新後も一部には行われたようである。
執筆者:加藤 秀幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
古文書様式の一つ。一字状、名字(みょうじ)状、加冠(かかん)状という場合もある。元服(げんぷく)に際し、烏帽子親(えぼしおや)がその子の命名に自分の諱(いみな)の一字(偏諱(へんき))を与えるとき、証拠としてその一字を記して与えた文書をいうが、烏帽子親子にとどまらず、封建的主従関係の強化を目的として主君従者間でも行われた。とくに室町・戦国期に盛行した。添状(そえじょう)を伴うこともあるが、一紙にまとめる場合は偏諱一字、年月日、差出(署名花押(かおう))充所(あてどころ)からなっていることが多い。
[久保田昌希]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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