紙と漆を主材料とする工芸技法。一般にはつぎの二つの技法を含めていう。器の表面に紙をはって漆を塗った〈一閑塗〉と,紙をはり重ねてボディとする〈張抜(はりぬき)〉である。前者は17世紀中国西湖飛来峯出身で日本に帰化した飛来一閑が創作した塗り方だが,いつのころからか,より古い技法である〈張抜〉の技法をも含めて一閑張と称されるようになった。
両者とも紙と漆が主材料であるが,技法も趣もまったく異なる。〈一閑塗〉は漆を1回だけ塗り,和紙のもつこまやかな質感を漆で殺さないようにするのが秘訣である。千宗旦がこれを愛玩したので茶の世界でその名が広まった。一方,張抜(紙胎)の技法は古くから見られ,木や粘土などの原型に後ではった紙が抜けやすいように工夫をし,わらび糊やこんにゃく糊に同量の柿渋を加えた糊で和紙をはり重ねた後,原型から抜いて塗漆する。和紙は西内(にしのうち)紙,美栖(みす)紙などがよい。張抜の遺品には12世紀の紙胎花蝶蒔絵念珠箱(金剛峯寺),13世紀の紙胎彩絵華籠(万徳寺),紙胎塗箱(安国寺),16世紀の本多忠勝所用冑の鹿角飾などがあり,とくに念珠箱は和紙を12~13枚重ねるが,その間に薄い麻布を5枚ほど挿入して強化をはかった珍しい技法で,表面には研出蒔絵で花蝶を表している。
執筆者:中里 寿克
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
飛来(ひらい)一閑が創製した茶人好みの紙張り素地(きじ)漆器。製法は、和紙を原型に水張りし、その上に和紙を糊漆(のりうるし)で貼(は)り重ね、所要の厚さまで貼り合わせてのち、原型から離脱し、この表面に漆を塗る。雅味ある肌から茶人に好まれ茶道具につくられるが、近年、新聞紙などでつくった安価な張抜き素地のものもこの名でよぶようになった。一閑張の考案者である飛来一閑(1578―1657)は寛永(かんえい)年間(1624~44)に帰化した明(みん)人で、西湖飛来峰下の出身であるので飛来を姓とした。茶人千宗旦(せんのそうたん)が彼の作品を愛好し、塗師(ぬし)として登用した。子孫はその業を継ぎ、現在に至り、千家十職(せんけじっしょく)の一つとして14代に及んでいる。
[郷家忠臣]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域ブランド・名産品」事典 日本の地域ブランド・名産品について 情報
…戦後の漆の研究は通産省工芸指導所東北支所での研究を経て,電子顕微鏡等による漆特有の耐久性の解明や,赤外線分光器等による古代漆状物質の同定などの研究が進んでいる。
[素地,道具,顔料など]
素地(きじ)となる材料には,木,布(乾漆),皮(漆皮),竹(籃胎(らんたい)漆器),紙(一閑張),金属,陶器,プラスチックなどがある。木には板物(指物)としてヒノキ,ケヤキ,アテ(輪島塗),アスナロ(春慶塗),ホオ(会津塗),カツラ(鎌倉彫)などがあり,挽物用としてケヤキ,トチ,ブナなど,曲物用としてヒノキ,カツラなどが用いられる。…
※「一閑張」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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