三審制(読み)さんしんせい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「三審制」の意味・わかりやすい解説

三審制
さんしんせい

訴訟制度上、三つの審級を設け、第一審の判決に対して不服のある当事者に控訴を認め、さらに上告という2段階の上訴を認める制度を三審制という。元来、三審制をとることは、制度上かならずしも絶対的な要請ではなく、これを採用している各国の立法例でも、訴額や訴訟の種類によって控訴や上告を制限しているものもある。訴訟で当事者が裁判所の判断を不服として、さらに上級裁判所の審判を求めることを上訴といい、最初の裁判所での手続を第一審(事実審)、上訴によって開始される上級の裁判所での手続を第二審・控訴審(事実審)、さらにその上の裁判所での手続を第三審・上告審法律審)と称する。

 日本の現行民事訴訟制度においては、四階級三審制をとっている。すなわち、訴額が140万円を超えない請求訴訟の場合は、第一審は簡易裁判所、控訴審は地方裁判所、上告審は高等裁判所であり、簡易裁判所における請求以外の訴訟の場合は、第一審は地方裁判所、控訴審は高等裁判所、上告審は最高裁判所である。三審制の例外として、当事者の合意により控訴審を省略して第一審から直接上告審へ上訴する跳躍上告(飛越(とびこし)上告ともいう。民事訴訟法281条1項但書)も認められている。これらの場合の上訴はいずれも未確定の判決に対する不服申立てである。これに対し第一審が簡易裁判所で高等裁判所が上告審である場合、その高等裁判所の判決に憲法違反などの理由があるときは、さらに最高裁判所へ上告することができる(同法327条1項)。これを特別上告というが、この場合は四審制をとっているのではなく、その対象は確定判決であって、形式上、再審制度と類似する。なお、このほかの三審制の例外として、公正取引委員会の審決に係る訴訟(独占禁止法85条1号)などについては高等裁判所が第一審裁判所となる。

 第一審、控訴審、上告審と順次審級を重ねて裁判所の判断を求めることができることを「審級の利益」という。前記のごとく原則として2回の事実審の上に法律審を設けていることは、当事者の不服申立てを機会として、その当事者の権利保護とあわせて、上級裁判所において国内の裁判所の法令の解釈適用を統一するという目的がある。

 このように裁判所に上下の階級が設けられているが、行政官庁の上下の関係とは異なり、司法権の行使について、下級裁判所が上級裁判所の一般的な指揮監督を受けるのではない。下級裁判所であっても独立にその権限を行使するのであって、裁判をするのに上級裁判所の指示を仰ぐとか、上級裁判所が下級裁判所の裁判に直接干渉するような関係ではない。ただ下級裁判所の裁判について、当事者から適法な手続で不服申立てとしての上訴があった場合には、上級裁判所はその不服申立ての当否を審査する権限があり、その結果として下級裁判所の裁判を取り消し変更する裁判ができることになる。ある裁判所の裁判に対する不服申立てを、上級裁判所としてどの裁判所が審理するかという関係を審級関係(審級管轄)という。

 なお、裁判には、判決以外に決定、命令があり、これらに対する不服があれば上訴(抗告)することができるが、その場合の審級関係については民事訴訟法第328条以下に定めがある。

 刑事訴訟法においては、控訴はすべて高等裁判所が審理を行い、第一審が簡易裁判所の場合(裁判所法33条)でも、第二審は高等裁判所、第三審は最高裁判所であり、民事訴訟とは異なる。

[内田武吉・加藤哲夫]

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世界大百科事典(旧版)内の三審制の言及

【高等裁判所】より

…現在の憲法体制が司法権の権限範囲を以前より拡大していることから,高等裁判所の権限も控訴院に比べ広くなっている。
[欧米の場合]
 第一審の裁判所と最上位の裁判所の中間に控訴のための裁判所を置いて,裁判所体系を3段階に構成し,訴訟について三審制を採るのは,外国にもしばしばみられる例である。アメリカ合衆国の連邦裁判所体系ではUnited States Court of Appeals for the circuit,ドイツ連邦共和国ではOberlandesgericht,フランスではCour d’appel,イギリスではCourt of Appealが,日本の高等裁判所に相当するといってよい。…

【審級】より

…最も単純な審級制度は,第一審限りで上訴をまったく認めない一審制であるが,これは近代的な司法制度の中では例外的である。現在は,二審制または三審制がほとんどである。二審制の典型は,第一審の判決に対して,法律的な誤りを理由とする1回の上訴だけを予定するもので,アメリカの多くの州の民事・刑事の裁判や,ドイツの刑事の重大事件の裁判などに,その例が見られる。…

※「三審制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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