事実問題について審理し、事実認定を行う審級。これに対して、法律審は法律の解釈・適用のみを扱い、事実認定を行わない。
[本間義信]
民事訴訟では、裁判所は権利あるいは法律関係の存否の判断を行う。しかし、これを直接に認識することはできないので、具体的な事実(とくに法律が権利の発生等の要件としている主要事実が重要であるが、これを認識するのに用いられる間接事実、補助事実も重要である)を認定し、これに法律を解釈・適用するという方法で行う。この過程を法的三段論法というが、その小前提をなす事実認定の分野を事実問題と称する。この事実問題および法律問題の双方について審理・判断する審級を事実審という(これに対し、法律問題のみを審理・判断する審級を法律審という)。事実問題については、当事者の提出した資料に基づいてのみ判断するのが原則であり(弁論主義)、これは口頭弁論で行われる。事実の認定は事実審裁判所(簡易裁判所、地方裁判所、および控訴審としての高等裁判所)の専権に属し、その適法に確定した事実は法律審(上告審としての高等裁判所および最高裁判所)を拘束する(民事訴訟法321条1項)。つまり、法律審裁判所は、原則として事実認定を行わず、事実審裁判所の事実認定を前提として、法の解釈・適用のみを行う。また、既判力の基準時は、事実審の最終口頭弁論終結時とされている。事実審とされるのは第一審・控訴審および抗告審である。これに対し、上告審・再抗告審は法律審である(ただし、上告審も事実判断をまったくしないわけではない。民事訴訟法325条3項など参照)。
[本間義信]
刑事訴訟では、控訴審は法律問題および事実問題を審理する事実審である。上告審は憲法問題、判例違反を審査するが、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認も原判決破棄の理由とされているから(刑事訴訟法411条3号)、事実問題も扱うといえよう。
[本間義信]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…裁判が当事者の権利義務を決定するという重大な課題を担うことから,訴訟法は,審級の異なる裁判所が3度にわたって審理を重ねる三審制度を設けて判決の適正を期している。各審級間の合理的職務分担を図るため,第一審・控訴審(第二審)を事実と法律の両面から事件を審理する事実審とし,上告審(第三審)を法律面に限って審理を行う法律審としている(控訴審と上告審をあわせて上訴審という)。そこで,事実の認定(事実問題)は控訴審かぎりで決着をつけることとし,上告審は法令違反(法律問題)を中心に審理をすることにすれば,単一または少数の裁判所が法的基準の最終的決定の任務を集中的に引き受けることになって,法令解釈の統一に資する。…
…そこで,上訴という機会を通じて,上級の(最終的には国内唯一の)裁判所が下級裁判所の判断を審査し,統一する制度が生み出される。 以上のような上訴制度の役割は,今日においても存在するが,大まかに見れば,第1の誤判救済の役割は,事実審への上訴である控訴により強く表れ,第2の裁判の統制の役割は,法律審(しかも,しばしば最高の裁判所)への上訴である上告により強く表れているといえよう。
[上訴制度の沿革]
ローマ法にもすでに上訴制度があったように,統治機構がある程度発達し,階層的な裁判所制度が成立しうるところでは,上訴の制度は古くから広く存在し,現代に至っている。…
※「事実審」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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