公正取引委員会,特許庁が審判手続を経たうえでなす行政決定(独占禁止法54条,特許法157条)。行政庁が専門的な知識をもって判断をなすべき領域の行政において,行政庁の専門性と国民の手続的権利の保障とのバランスをとるために,アメリカで発達した行政委員会による決定方式を範としたもの。行政庁が行政処分を決定するための事実認定や,法律の適用等について,処分を受ける国民があらかじめ裁判類似の手続(準司法的手続)によって,自己の主張をなす機会を与えられることが保障されている点で,一般の行政処分の決定方式と異なる。
公正取引委員会の審判手続は刑事裁判に似た構造をもち,公正取引委員会ないしは事務局職員である審判官が裁判官,独禁法違反を問われている事業者が被告人(被審人と呼ばれる),事務局職員である審査官が検察官として機能し,当事者主義的手続の下で,証拠による事実認定がなされ,法の適用が争われる。このような手続を経て最終的に下される判決に該当する決定が審決であり,その主文は行政処分である排除措置を定めるものである。公正取引委員会の審決にはこのような正式の審判審決のほか,委員会が独禁法違反行為の存在を指摘し,その排除を行政指導する勧告に対して,事業者が応諾する場合に審判手続を経ないで勧告と同趣旨の審決をなすことを認める勧告審決(独占禁止法48条)と,審判手続が開始された後に,被審人が審判開始決定書記載の事実と法の適用を認め,その後の手続を経ずに審決を受けることを申し出た場合に,独禁法違反を除去するための対応策の計画を被審人にみずから作成させ,公正取引委員会がそれを適当と認めた場合には,その後の手続を経ずに計画書記載の措置と同趣旨の審決をなすことを認める同意審決(53条の3)の2種類の略式の審決の制度があり,現実には,審決のほとんどは勧告審決でなされている。
事前にこのような手続を経ているため,公正取引委員会の審決の取消訴訟は東京高等裁判所の専属管轄とされ,事実認定についても裁判所が公正取引委員会の認定を一定の範囲で尊重する,実質的証拠法則が採用される等,訴訟面でも特殊な扱いがなされている。
執筆者:来生 新
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…この手続を規律する通則的な法律はなく,個々の法令の定めるところによって審判は行われるが,ふつう審判は公開され,対審的な形をとって行われ,処分の相手方やその他の利害関係者は,意見を述べ,証拠を提出し,参考人の陳述や鑑定を要求することができる。
[審決と実質的証拠法則]
全体としての行政審判は,審判機関が,審判を経て行った事実認定にもとづいて,法的判断を行うことによって,終結する。この判断は,一般に,審決とよばれている。…
…特許審判,海難審判,公正取引委員会の行う審判などがこれに当たる。その手続の結果出される判定の呼称は一様でなく,特許審判,公正取引委員会の審判では審決といい,海難審判では裁決という(特許法157条,独占禁止法54条,海難審判法42条)。このような審判を行う者を審判官という。…
※「審決」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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