江戸幕府の旗本大久保彦左衛門忠教が子孫に書き残した自伝。上中下の3巻から成る。松平氏の発祥から徳川家康が天下をとり東照権現としてまつられるまでの過程で,大久保一族の忠勤と自身の活躍を述べたもの。とくに彦左衛門16歳の初陣以降の叙述は,名文ではないが具体的で臨場感にあふれている。本家大久保忠隣(ただちか)の改易以来,主君から冷遇されていた大久保一族の不遇をなげきながらも,将軍への忠勤を子孫に説くなど,当時の武士の思想や世界観を知る上での好史料である。また当時の口語が頻繁に使用されている点で,国語学上でも貴重な資料である。成立は1626年(寛永3)と考えられるが,《三河記》《大久保忠教自記》《大久保彦左衛門筆記》などの別称で早くから写本が広く流布した。一心太助の登場する実録《大久保武蔵鐙(むさしあぶみ)》は,内容的には本書とはまったく無関係であるが,そこに見られる彦左衛門像は,本書に示された彦左衛門の性格から由来したものである。
執筆者:高木 昭作
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江戸前期の旗本大久保忠教(ただたか)(彦左衛門)の自伝。三巻三冊。『大久保彦左衛門筆記』『参州記』などともいう。1622年(元和8)に草稿が成立。上巻は家康の父広忠(ひろただ)までの徳川氏の事績、中巻・下巻は家康が三河、遠江(とおとうみ)、駿河(するが)、甲斐(かい)、信濃(しなの)の五か国大名となる過程と、大久保氏の功績が述べられている。下巻には子孫への教訓が記されており、そのなかで、徳川氏創業に功労のあった譜代(ふだい)家臣が重んじられていないと批判している。『武士道全集八』『家康史料集――戦国史料叢書(そうしょ)』『日本思想大系26』に所収。
[煎本増夫]
『斎木一馬他編『日本思想大系26 三河物語・葉隠』(1974・岩波書店)』
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徳川氏創業の物語。武士道の書。3巻。大久保彦左衛門忠教(ただたか)著。自筆稿本には1622年(元和8)とあるが,最終的には25~26年(寛永2~3)に成立。徳川家康の先祖である松平氏8代の事績,家康の前半生,武田・豊臣氏らとの抗争などを叙述,巻尾に譜代大久保一族の主家への忠勤と忠教の述懐,子孫への教訓が記される。戦国末期の武士の生き方と戦国大名としての徳川氏の歴史が描写される。使用されている言葉遣いは国語史の資料となる。「日本思想大系」所収。
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…戦国時代や安土桃山・江戸時代初期に多く記録されている。聞書,留書,置文,書上などの形をとることが多いが(《渡辺勘兵衛武功覚書》など),現在はむしろ文学作品として扱われている覚書も多い(《信長公記》《三河物語》など)。筆者には,文筆に秀でた御伽衆(おとぎしゆう)などの武士が多い。…
※「三河物語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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