出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
江戸末期から明治の江戸の陶工。幼名は藤太郎。初めて将軍上覧の「席焼」の栄誉を受けた伯父の井田吉六(きちろく)に陶法を学び、また、西村藐庵(みゃくあん)から尾形乾山(けんざん)の陶技を伝授されて自ら6世乾山を名のり、天禄堂(てんろくどう)を号した。さらに絵を谷文晁(ぶんちょう)、蒔絵(まきえ)を寛次郎に学び、小川破笠(はりつ)の遺法に従って漆器へ陶器を嵌入(かんにゅう)する加飾法を考案した。この精巧な破笠細工のほか、乾山を手本とした雅趣に富む絵付陶をはじめ、彫塑、装身具(乾也珠(だま))など広い作域をこなした。1875年(明治8)深川から向島(むこうじま)長命寺へ移り晩年を送ったが、ほかにも神奈川県小田原(おだわら)、埼玉県飯能(はんのう)に窯(かま)を築いており、また宮城県塩竈(しおがま)に造船所をおこし、東京で初めてガラスを焼くなど、文明開化期の才人でもあった。代表作に『鵞鳥(がちょう)図額』(東京国立博物館)がある。
[矢部良明]
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