不同意わいせつ罪(読み)ふどういわいせつざい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「不同意わいせつ罪」の意味・わかりやすい解説

不同意わいせつ罪
ふどういわいせつざい

相手の同意を得ずにわいせつな行為を行う犯罪。「強制類型または誤信類型(後述)」に当てはまる行為または事由により、被害者に対して「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態にさせ、その状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者」は、婚姻関係の有無にかかわらず、法定刑は、6月以上10年以下の拘禁刑である(刑法176条)。性的同意年齢(同意する能力をもつとされる年齢)は16歳であり、被害者が16歳未満の場合は(法務省の見解によれば、刑罰の謙抑性の観点から、13歳以上16歳未満の場合は行為者が5歳以上年長であることが条件)、同意の有無にかかわらず不同意わいせつ罪が成立する。

 不同意わいせつ罪は非親告罪であり、被害者の告訴がなくても起訴できる。訴追可能な公訴時効の期間は12年であり、被害者が18歳未満であれば、実質的にはその者が18歳に達したときから計算される(刑事訴訟法250条3項3号、同条4項)。未遂も処罰され(刑法180条)、死傷の結果が生じた場合には、無期または3年以上の拘禁刑となる(同法181条1項)。この場合の時効は、被害者死亡の場合は30年、負傷の場合は、20年となっている。

 本規定は、2023年(令和5)の刑法一部改正により新たに設けられたもので、それまでの「強制わいせつ罪」から大きな変更が行われた。旧規定では、暴行または脅迫が要件であり、暴行・脅迫の有無やその程度が問題となっていた。しかし、とくに旧刑法第178条1項の準強制わいせつ罪における要件であった「抗拒不能」の定義がこの暴行・脅迫と関連して理解されていたため、意思に反する性的接触を受けても強制わいせつに該当するかどうかが問題になるケースがあった(外見的に被害者が拒否しなかったことが、消極的な同意と理解される余地があった)。

 新規定では、暴行や脅迫だけでなく、行為時の状況として被害者が同意を表明できない心理的・身体的な状態(酩酊(めいてい)、恐怖、混乱など)も明記され、同意の有無に焦点があてられ、被害者の保護がより厚くなったといえる。不同意わいせつ罪が成立する要件として、全体で八つの一般的な事由を例示的に類型化した「強制類型」と、わいせつな行為の意味を誤信させるケースと人違いというケースを限定的に列挙した「誤信類型」とが新たに規定された(同法176条1、2項)。八つの強制類型とは、①暴行・脅迫、②心身の障害、③アルコール・薬物の影響、④睡眠など意識が不明瞭(ふめいりょう)な状態、⑤同意しない意思を形成、表明、全うするいとまがないこと(不意打ちされた状態)、⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖・驚愕(きょうがく)させること(極度に動揺して平静を失った状態。何も考えることのできない思考停止状態、いわゆるフリーズの状態)、⑦虐待に起因する心理的反応(虐待による無力感・恐怖心など)、⑧経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮(断ったら不利益が生じるのではないかという不安の状態)である。

 なお、実際のケースでは、被害者が抵抗しなかったので「同意があったと思った」という主張が行為者からなされることがある。これはいわゆる同意の錯誤(正当化事由の錯誤)であり、普通は故意が阻却されるが(無罪)、これをどう理解すべきかは、新規定の内容とは別に理論的な問題点として残っている。

[園田 寿 2025年8月19日]

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