犯罪行為が終わってから一定期間が過ぎると起訴ができなくなる制度。時間の経過とともに証拠が散逸して公正な裁判が困難になったり、被害者の処罰感情が希薄化したりすることなどが根拠とされる。2010年4月の刑事訴訟法改正で、最高刑が死刑に当たる強盗殺人や殺人などの時効は廃止され、
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犯罪が行われた後、法律の定める一定期間が経過することによって、公訴権が消滅する制度をいう。公訴権が消滅した事件については、検察官は事件を不起訴処分とし、起訴がなされた場合には、裁判所はその事件について免訴の判決を言い渡さなければならない(刑事訴訟法337条4号)。公訴時効制度の根拠については、時の経過とともに被害者を含め社会一般の処罰感情が希薄化することにその理由を求める説(実体法説)、時の経過とともに、証拠が散逸し、起訴して正しい裁判を行うことが困難になるとする説(訴訟法説)、これらの理由のいずれをも根拠とする説(競合説)、さらには、犯罪後、犯人が処罰されることなく日時が経過した場合には、そのような事実状態の継続を尊重すべきであるとする説(新訴訟法説)などがある。
公訴時効期間は、刑法等で定められている罪種ならびに法定刑による刑の軽重に応じて定められている。具体的には、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑にあたるものについては、(1)強制わいせつ致死など無期の懲役または禁錮にあたる罪については30年、(2)傷害致死など長期20年の懲役または禁錮にあたる罪については20年、そして、(3)自動車運転過失致死などそれ以外の罪については10年の期間が経過することによって公訴時効が完成する(刑事訴訟法250条1項)。人を死亡させた罪であっても過失致死など罰金以下の刑にあたるものおよび人の死亡を伴わない罪については、以上とは別に、より短期の時効期間が定められている(同法250条2項)。
ただし、人を死亡させた罪であって死刑にあたるもの、たとえば殺人罪、強盗殺人罪などのきわめて重大な罪については、公訴時効の対象とはならない(同法250条1項)。日本では、明治時代以来、死刑にあたる事件についても公訴時効制度が設けられてきた。たとえば、殺人罪の公訴時効期間は1880年(明治13)に公訴時効制度ができたときには10年とされたが、その後1908年(明治41)の法改正で15年に延長され、その制度がおよそ100年間続いた。2004年(平成16)に至り、日本人の平均寿命が延びたことや新たな捜査技術が開発されたことなどを理由として、その期間は25年に延長された。しかし、その後、人の生命を奪った殺人などの犯罪については、時間の経過により一律に犯人が処罰されなくなるのは不当であり、より長期にわたって刑事責任を追及できるようにすべきであるという意識が国民の間で共有されるようになったことなどから、2010年に、殺人罪などのきわめて重大な犯罪について公訴時効制度が廃止された。
公訴時効は、犯罪行為が終わったときから進行し、共犯の場合は、最終の行為が終わったときから、すべての共犯に対して時効の期間を起算する(同法253条)。時効は、当該事件についてした公訴の提起によってその進行を停止し、管轄違いまたは公訴棄却の裁判が確定したときからその進行を始める(同法254条1項)。共犯の一人に対する公訴の提起により時効が停止するときは、他の共犯についても時効は停止する(同法254条2項)。犯人が国外にいる場合または犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状謄本の送達ができないなどの場合にも、時効の進行は停止する(同法255条)。
[田口守一]
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