改訂新版 世界大百科事典 「不在者」の意味・わかりやすい解説
不在者 (ふざいしゃ)
民法では住所を離れて長期間帰って来る見込みのない者をいう(民法25条)。たとえば,家出をして所在不明になった者とか,いわゆる蒸発をしてしまった者とか,借金に追われて夜逃げをしてしまった者とかがこれに該当する。不在者が財産を残していたときに,その財産をどのように管理すべきかが法律上問題となる。不在者がだれかに管理を委託しておいた場合にはその者が管理すれば足りるが,そうでない場合には財産が放置されることとなり,不在者と利害関係を有する者にとって不利益を生ずることがある。たとえば,不在者が住宅を空家のまま放置すると,建物は徐々にいたんでいくため,その住宅を担保として不在者に金銭を貸し付けていた債権者としては担保物件の価値が下落することとなるし,また,不在者が死亡したり,失踪宣告を受けたりしたときにその財産を相続することが予定されている相続人にとっても相続財産の価値が減少していくこととなる。このような利害関係人は家庭裁判所に対して管理人(財産管理人)の選任を請求することができ,その管理人によって不在者の財産を管理してもらうことができる。このような不在者について生死不明の期間が一定期間継続すると,失踪宣告がなされることもある(30条)。
なお,公職の選挙に関しては不在者投票の制度が定められているが,そこでいう不在者とは選挙の当日にみずから投票所に行って投票することができない者を意味し(公職選挙法49条),民法上のものとはまったく異なる。また,農地法によって不在地主の小作地所有は禁止されているが,そこでいう不在地主とはその者の住所のある市町村の区域外にある小作地を所有する者を意味し(農地法6条),これも民法上のものとはまったく異なる。
→失踪
執筆者:栗田 哲男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報