長い地球の歴史の間に,たとえばある時代は暖かく,ある時代は寒くといったように,気候は波を描いて絶えず変化している。これを気候変化または気候変動という。これまでの研究によると,さまざまの気候変動の周期が示されている。なかでも,周期11年は太陽活動に対応するもので顕著である。また,35年周期(ブリュックナー周期)は,E.ブリュックナーがカスピ海の水位,アルプス山岳氷河の消長などの変動中に見いだしたものとして有名である。
気象観測資料から直接気候変化を知ることができるのは,せいぜい今から200年前以後である。歴史時代,地質時代に及ぶ気候変化を抽出するためには,さまざまな指標を用いる。すなわち,歴史時代の古気候は古文書,古日記,伝説,民族の移動などの記録・伝承や樹木の年輪の間隔などを用い,地質時代については,地形,堆積物(たとえば氷河地形やその跡),古地磁気,古生物,貝などの古生物が摂取した酸素の同位元素比(18O/16O。生息時の海水温を推定する),植物の花粉(花粉分析)などを指標にして気候変化を探る。
ところで,気候値をどの程度の時間単位で求めるかによって気候変化の内容は異なる。世界気象機関は平年値を30年間の平均値とし,西暦の10年で区切られる年度ごとに更新することにしている。このため,一般に気候変化を論じる場合には,気候変化は平年値の変動であると考え,10年以上の周期の現象を取り扱う場合が多い。
気候変動の規模は,一般にいって,波長の長いものほど振幅が大きい。言い換えれば,程度の大きいものほどその現象の地域的広がりも広い。これは,地域的に大スケールの現象ほど,現象の寿命時間が長いことに対応している。つまり,氷河期は全地球的規模で起こるが,数十年または数世紀の寒冷化というような現象は地球上の部分的な規模で起こる。
過去の気候を古気候palaeoclimateと呼ぶ。地質時代,歴史時代,観測時代を通じて,これまで明らかになっている気候変化の事実を要約すると次の通りである。
(1)古生代,中生代 古生代より前,すなわち先カンブリア時代(約38億~5.9億年前)における気候はほとんどわかっていない。古生代の大半の期間は両極地方には氷がなく,今日より温暖であった。しかし,温暖であった石炭紀の末期になると寒冷化し,二畳紀にかけて(約2.9億年前)氷期となった。二畳紀の氷河は,南アメリカ,南アフリカ,インド,アラビア,マダガスカル,オーストラリア,南極大陸などに分布することが知られている。これらの地域は,この時代に一つの大陸,すなわちゴンドワナ大陸を形成していたと推定される。
中生代(約2.5億~6500万年前)にはいると,気候はまた温暖になった。二畳紀には熱帯は北緯20°と南緯20°の間であるが,中生代の三畳紀になると北緯23°と南緯23°の間に拡大した。地上の年平均気温は両極で8~10℃,熱帯では25~30℃であった。大陸には砂漠気候が卓越した。その後,中生代末には地球全体がやや低温となった。
(2)新生代 第三紀(6500万~200万年前)にも高温な時代があり,始新世から中新世のころには,熱帯は北緯28°と南緯28°の間に幅広く広がっていたと考えられている。亜熱帯は北緯40°と南緯40°まで達し,両極地方は亜寒帯の気候で,寒帯気候を欠いていた。次いで500万年前ころから低温になり始めた。このころ南極大陸で氷河が広がった。アメリカのシエラ・ネバダ,アイスランド,グリーンランドの山岳氷河は250万年前に広がった。
第四紀(200万年前以降)になって気候は寒冷化した。人類の起源はおよそ300万~200万年前とされており,人類はこの寒冷な気候の時代をくぐりぬけてきたことになる。100万年前以降,ドナウ,ギュンツ,ミンデル,リス,ウルムの5回の大きな氷期がおとずれた。
(3)後氷期と歴史時代 第四紀のうち,最終氷期以降の,気候が温和になり始めた時代を後氷期と呼ぶ。後氷期の気候は,地球全体に温和になってきたが,やはり小さな寒暖の波があった。すなわち,1万4000年前までは,アークティックと呼ぶ時代でかなり寒冷であった。それが少し昇温して,サブアークティックと呼ばれる時代が1万年前くらいまで続いた。
9000~4000年前は温暖な時期であった。このなかでも6500~5500年前をヒプシサーマルhypsithermalまたは気候最適期climatic optimumと呼び,特に温暖であった。全世界的に高温で,年平均気温は2~5℃で現在より高温であった。この時代は,日本の縄文時代中~後期にあたり,いわゆる縄文海進の時期にあたる。5500年前ころから再び冷涼になり始めた。
その後,いったん回復した気候は,3000年前から紀元後100年にかけて,また寒冷化し氷河は北欧やアルプスで成長した。日本では,弥生時代初期の寒冷な時期にあたる。この状況は後350年ころまで続き,現在より冷涼湿潤であった。
その後気候は回復して,400~1200年は概して温暖期であった。特に8世紀ころと,10世紀にピークがあった。13~14世紀はまた氷期に似た気候になり始め,特に16~19世紀前半を低極とする小氷期となった。近年では最も寒冷な時代であった。
(4)観測時代 観測時代とは最近150~200年をいう。1880年代に低温期があったがその後0.5~1.0℃の昇温を示している。1900年前後に一つの極大があった。その後昇温を続け40年ころに最も高温な時期を迎えた。50年代までの温暖化の傾向は高緯度ほど大きい。最近の研究結果を図に示す。これは,北半球における平均気温の変動を過去100年間について示したものである。この結果,1880年代の極小と1940年代の極大というおよその傾向はこれまでの研究と一致し,両極値の差は0.3℃となることが示されている。
いわゆる都市気候の影響を除いて考えると,最近の1960年代になって,冬の気温は下降の傾向をたどっている。1950年代は日本付近における冬型気圧配置の出現頻度は少なく,60年代から多くなった。
気候変化の原因として次のものが考えられる。
(1)地殻の変動 たとえば,ヒマラヤ山脈のように東西方向の大山脈が形成されれば,南北方向の大気の循環がさまたげられ,高緯度地方と低緯度地方の空気は混合されにくくなる。その結果,高緯度地方はいっそう低温になり,低緯度地方はいっそう高温になる。さらに山脈の出現は大気の循環に影響を与え,各地の気候を変化させる。たとえば東アジアの梅雨はヒマラヤ山脈の存在によるところが大きいと考えられている。
かつてパンゲアと呼ぶ巨大な大陸があり,それが分裂・移動し(大陸移動説)現在の5大陸が形成された。大陸移動に伴い各地点の緯度が変化したことによって,また陸地と海の分布などが変化し大気と海水の循環に大きな影響を与えたことによって,各地の気候は大きく変化したと考えられる。
(2)大気の組成と浮遊物の変化 火山活動によってH2O,CO2などの火山ガスや火山灰などの固体物質が放出される。CO2が空気中に放出され,空気中のCO2濃度が上昇すると温室効果により気温が上昇するといわれる(近年は産業起源のCO2が増大しており,影響が懸念されている)。大気中の水蒸気が増加すると,雲量が増し,大気の温度は低下すると考えられる。噴火によって放出された火山灰は成層圏に達し長時間落下しない。このため,地上にとどく太陽放射が少なくなる。実際に,1883年のクラカタウ火山の爆発のあとでは日射量は減少した。
(3)太陽エネルギーの変化 太陽から放出されるエネルギーが増加すると,全世界の気温が上昇するが,特に赤道地方が極地方より大きな影響を受け,南北方向の気温の差が増加する。このため,大気大循環が盛んになり,雲量が増加し,降水量も増加する。そうすると,氷河が発達する。また,太陽放射のうち紫外部の変動が高層のオゾン層に影響を与え,これがさらに大気大循環に影響を及ぼすことが考えられる。
(4)太陽と地球の天文学的位置の変化 地球軌道の離心率の変化,歳差運動の周期,地球の公転面に対する自転軌道の傾きの変化を合成し,地球上の日射量を計算して氷期の原因に言及した,ミランコビッチM.Milankovitchの説が有名である。
以上述べたように,気候変化の原因は多数考えられているが,特に気候変化を究明するためには,さまざまな要素によって生じた結果の,フィードバック機構を合理的に整理することが重要である。
→異常気象 →氷河時代
執筆者:林 陽生+吉野 正敏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
気候は長い期間をとると、さまざまに変化する。数百万年から数万年の時間スケールで、氷期と間氷期が訪れたり、数百年から数十年の比較的短い時間スケールでも、温暖な時期と寒冷な時期が現れたりする。気候変化とは、数十年以上の時間スケールでおこるこのような変化の総称である。気候変化の原因は、太陽活動などの自然的要因と、二酸化炭素の増加による地球温暖化などの人為的要因とに大別されるが、現在では人為的要因による気候変化、すなわち「地球温暖化」と同義で使われることが多い。類似した用語の「気候変動」は、対象とする時間スケールが年々~数十年と短く、本来は変動の大きさ(変動性variability)を議論する場合などに用いられるが、日本では「気候変動」に気候変化の意味も含めて用いられることが多い。ちなみに、政府レベルで地球温暖化問題を検討するために設立された国連の関連の組織であるIPCCのCCはClimate Change(気候変化)であるが、「気候変動に関する政府間パネル」と翻訳されている。
[三上岳彦 2015年4月17日]
対象とする時間スケールによって、(1)地質時代、(2)歴史時代、(3)観測時代に分けられる。
(1)地質時代とは、地球の誕生から新生代第四紀までの期間で、数億年から数万年の時間スケールがその対象となる。この時代の気候は、古い地質や動植物の化石などから、およそ次のように推定される。数億年以上前の先カンブリア時代については不明であるが、古生代前半のカンブリア紀からデボン紀(約5億4100万~3億5890万年前)は温暖であった。古生代後半の石炭紀からペルム紀(約3億5890万~2億5217万年前)にかけて、南半球を中心とする氷河時代があったが、その後、中生代から新生代第三紀(2億5217万~258万年前)までは比較的温暖な気候が現れた。続く第四紀(258万年前以降)は氷河時代ともよばれ、北半球を中心に氷期と間氷期が交代した。とくに80万年前ごろからは、約10万年の周期で氷期と間氷期が交互に訪れた。最終氷期の最寒冷期は約2万年前で、地球の平均気温は現在よりも5~6℃程度低かったと推定されている。この最終氷期は約1万年前に終わりを告げた。
(2)歴史時代とは、後氷期の約1万年間をさす。この時代の気候を推定するには、樹木の年輪や花粉の分析、極地の氷河に含まれる酸素同位体比(18O/16O)の分析などのほかに、日記や古文書の天候・災害記録が役にたつ。それによると、最終氷期以降の温暖化は約6000年前に頂点に達し、その前後約3000年間は気候最良期あるいはヒプシサーマルとよばれている。平均気温は現在よりも1~2℃くらい高かったと推定される。その後は変動を繰り返しながらしだいに寒冷化している。過去約2000年間をみると、8世紀から13世紀にかけて、「中世の温暖期」とよばれる温暖な時期があり、続く15世紀から19世紀に至る約300年間はヨーロッパを中心に寒冷な気候が訪れ、「小氷期」とよばれた。
(3)観測時代とは、19世紀末以降、現在までの期間をさすが、気象観測データを用いて詳細な気候変化の様相を知ることができる。IPCC第5次評価報告書(2013年発行)によると、陸上と海上の観測データをもとに世界の複数の研究機関が別個に算出した地球全体の平均気温から求めた直線的な変化傾向から、1880年~2012年の期間に0.85℃の気温上昇(温暖化)が確認された。
[三上岳彦 2015年4月17日]
自然的な要因と人為的要因(人間活動)によるものとに大別される。
〔1〕自然的な要因としては、(1)地殻や地磁気の変化(大陸移動、造山運動、地磁気の強弱など)、(2)地球軌道要素の変化(軌道の離心率、自転軸の傾き、歳差運動が、それぞれ約10万年、約4万年、約2万年の周期で変動することによる中高緯度での日射量変化)、(3)太陽活動の変化(日射量、宇宙線量の長期変動)、(4)火山活動の変化(大規模噴火に伴う成層圏微粒子の増加による一時的な地上気温の低下)などがあげられる。海水温や雪氷面積の変動も気候変化の引き金として重要である。
〔2〕人間活動による気候変化でもっとも重要なのが、大気中の二酸化炭素濃度の増大による温室効果の強化である。21世紀末には、19世紀末の約2倍に増大すると予想される二酸化炭素によって、地上の平均気温は2~3℃程度上昇すると推定されている。
[三上岳彦 2015年4月17日]
『住明正・安成哲三・山形俊男・増田耕一・阿部彩子・増田富士雄・余田成男著『岩波講座 地球惑星科学11 気候変動論』(1996・岩波書店)』▽『三上岳彦監修、『タイム』誌編集部編『地球温暖化――TIME誌の写真でわかる地球温暖化問題と解決法』(2009・緑書房)』▽『甲斐憲次編著『二つの温暖化――地球温暖化とヒートアイランド』(2012・成山堂書店)』▽『鬼頭昭雄著『気候は変えられるか?』(2013・ウェッジ)』▽『多田隆治著、日立環境財団協力『気候変動を理学する――古気候学が変える地球環境観』(2013・みすず書房)』▽『筆保弘徳編、川瀬宏明編著、梶川義幸・高谷康太郎・堀正岳・竹村俊彦・竹下秀著『異常気象と気候変動についてわかっていることいないこと――ようこそ、そらの研究室へ』(2014・ベレ出版)』
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