中華人民共和国憲法(読み)ちゅうかじんみんきょうわこくけんぽう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「中華人民共和国憲法」の意味・わかりやすい解説

中華人民共和国憲法
ちゅうかじんみんきょうわこくけんぽう

1982年12月4日、中華人民共和国第五期全国人民代表大会で採択された中華人民共和国の憲法。中華人民共和国は1949年に成立した。その当初決議された「中国人民政治協商会議綱領」が社会主義国家建設をスローガンとし、また、それが臨時憲法としての役割を果たした。1954年になって、その綱領をもとにした最初の憲法ができ、1975年、1978年に改正が行われ、1982年憲法の制定となった(以下「中国憲法」という)。中国憲法は、まず前文で生産手段、私有制の社会主義的改造が達成された社会主義国家であることを確認したあと、全力をあげて各民族の共同の繁栄と独立自主の対外政策を堅持していくことを明らかにする。本文は「前文」ほか「総綱」(第1章)、「市民の基本的権利および義務」(第2章)、「国家機構」(第3章)、「国旗、国歌、国章、首都」(第4章)の4章で構成されている。2010年時点で四度の部分改正が行われている。

 中国憲法の特徴は、第一に、社会主義体制を中国の根本制度とし、その体制を破壊することはすべて禁じている(1条)。そしてその社会主義体制の基礎として、中国は生産手段の社会主義的公有制、すなわち全人民的所有制および勤労大衆による集団所有制であることを宣言している(6条)。しかし、この考えを基本としながらも、私営経済など非公有制経済の地位の引上げ、私有財産の保護を強化するなど所有制にかかわる改正が行われている。この改正によって、国営経済、国営企業を国有経済、国有企業と呼称を改め、国は直接経営に関与しないことを表明するなど、社会主義国家の展開は色あせてしまったといえよう。

 第二に、市民の基本的権利および義務について24か条の条文を置く。まず、平等権について定め、いかなる市民も法の前にすべて平等である(33条)とし、18歳以上の市民は、民族、人種、性別、職業、財産等の違いによって差別されないことを具体的に定める。とくに、中国では長期にわたって抑圧されてきた少数民族と女性に対して独自の保護規定を設ける。

 自由権については、市民の政治的表現(言論、出版、集会結社、デモ行進等)の自由、信教の自由、人身の自由等について保障している。これらの市民の自由および権利の行使については国・社会・集団の利益といった体制内の自由および市民の合法的自由に限定して(51条)、人民大衆を抑圧し、進言の道をふさぎ、民主主義を窒息させるものを防止することに努めるとしている。経済的権利として、市民の労働の権利と義務を定め、国は各種のルートを通じて「就業の条件を整備し、労働保護を強化し、労働条件を改善し、生産の発展を踏まえて、労働報酬および福利面での待遇を向上させる」(42条1項・2項)と定める。国家が生産を発展させない限り、労働条件の改善はできないし、労働者の福祉、待遇の改善もできないという認識を示していることから、国の努力義務規定と解されよう。また、勤労者に対する休息権についても具体的に規定する(43条)。

 市民の文化的教育的権利については、市民の教育を受ける権利と義務を保障し、さらに「国家は青年、少年、児童を育成して、品性、知力、体質などの全面的成長を図る」(46条)と同時に文化活動の自由(47条)についても定める。中国では労働権と並んで教育権の保障を重視している。そのほか、母親、児童、婚姻、家庭、高齢者に対する配慮および保護について定める(49条)。また、国家機関または国家公務員の違法行為、職務怠慢に対し、市民は上申告訴また告発する権利を有するなどユニークな規定(41条)もみられる。市民の義務については、「市民の国家の統一および全国各民族人民の団結擁護の義務」(52条)、憲法および法律の遵守義務、公共の秩序および社会の道徳の尊重義務(53条)、「祖国の安全、栄誉、利益を保持する義務」(54条)、および「祖国防衛と兵役の義務」(55条)などについて定める。とくに、兵役については「兵役に服し、民兵組織に参加することは、中華人民共和国市民の光栄ある義務である」(55条)としている。

 第三に、「すべての権力は人民に帰属する」(2条)が、具体的には代表による政治制度を採用している。すなわち、人民の代表によって選出される全国人民代表大会は、最高の国家機関であり(57条)、国家主席・副主席を選出・罷免し、全国人民代表大会の代行機関である全国人民代表大会常務委員会委員を選出・罷免し、行政を担当する国務院の総理を国家主席の指名に基づいて選出・罷免する(62条・63条)、としている。国家主席・副主席は1975年および1978年憲法にみられなかったが、現中国憲法で復活した。そのほか、裁判機関である最高人民法院の院長の選出・罷免、法律監督機関である最高人民検察院検察長の選出・罷免も行うとしている(62条・63条)。また、全国の軍事力にかかわるいっさいの武装力を指揮する中央軍事委員会が設置され、全国人民代表大会と全国人民代表大会常務委員会に対する責任体制をとり(94条)、主席責任制(国家主席がそれらの国家活動に対して責任を負う体制)を実行している(93条)。また、これらの政府機関も共産党の強力な指導のもとにある。

[吉田善明]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「中華人民共和国憲法」の解説

中華人民共和国憲法(ちゅうかじんみんきょうわこくけんぽう)

中華人民共和国憲法は国家制度を定めた基本法であるが,日本国憲法のように制定以来まったく改正されない「不磨の大典」ではない。三権分立を否定し,立法府優位の原則を貫く。1954年に初めて制定されたのちに,75年,78年,82年に全面的に改正された。82年以後も,部分的な改正が88年,93年,99年に実施されている。その意味では,時代の変化に見合った形で変貌している。例えば,国家の性格についても社会主義への過渡期に制定された54年憲法では「人民民主主義国家」と規定され,社会主義への移行が宣言されたのちの75年,78年,82年憲法では「社会主義国家」に規定が変更された。82年以降の部分改正も市場経済体制への移行,非公有制経済の台頭など,時代の変化を考慮している。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

百科事典マイペディア 「中華人民共和国憲法」の意味・わかりやすい解説

中華人民共和国憲法【ちゅうかじんみんきょうわこくけんぽう】

1954年9月制定された中国の憲法。1949年の中国人民政治協商会議の共同綱領を発展させたもの。労農同盟を基礎とする人民民主主義国家を原理とし,国家権力の最高機関は全国人民代表大会。社会主義社会建設への過渡的憲法であり,生産手段は国有・集団所有のほか個人所有・資本家所有も解消の方向をとりつつ認められている。文化大革命末期の1975年に大改正が行われ,プロレタリア独裁強調型の内容に移行。さらに1978年の改正を経て,1982年に再改正。現代化推進型の内容となった。
→関連項目憲法

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