擬制的親族関係の一つで,血縁関係はなくても同じ女性の乳をのんで育った者どうしの間に結ばれる擬制的兄弟関係をさす。旧大陸の牧畜民文化や古代文明地帯およびその周辺に主として分布しており,しばしば里親,儀礼的養子,乳母の制度と結びついている。乳兄弟の制度は政治的機能や法的機能をもつことが多く,たとえば乳母の制度が発達しているところでは,主人の子と乳母の子は乳兄弟であるとともに,主従関係が両者の間に成立することが多い。他方,カフカスのオセット人では,人を殺した者がその被害者の母親の乳房に唇で触れることに成功すると,殺害者と被害者との間には乳兄弟関係が成立するので,もはやこの殺人者は被害者の遺族からの復讐の対象にはならないとされた。乳兄弟関係にあるものの子供どうしは,血縁者に準ずるものと考えられるため,アルメニア人や,トルクメン人や南スマトラにおいては,互いに結婚することが禁ぜられている。
→乳母
執筆者:大林 太良
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
血縁の兄弟ではないが、同じ人の乳(ちち)で育てられた者同士の関係を示すことば。同一人の乳を飲むことによって、同一の生命力を与えられたと意識し、特別に強く連帯感をもつもので、男子の場合が多い。鎌倉時代、比較的身分の高い乳母(うば)が多いのは、授乳を媒介として乳母の一族と結合する、あるいは乳兄弟の関係が社会的に必要であったのか、注目すべきことである。授乳には出生直後行う儀礼的授乳慣習がある。生児が男なら女児をもつ母親、反対に女なら男児の母に乳をもらうもので、両性にかかわることによって、より強い子供に成育すると信じられたものである。あるいはさらに、異性の乳兄妹(ちきょうだい)を必要とした民間信仰があったのかもしれない。
[鎌田久子]
…日本では母乳以外に動物の乳を利用する風習はまれであった。母乳の少ない場合には,乳の多い女性から分けてもらって赤子を育て,同じ母乳を飲んで育った者は,乳兄弟として母を同じくする兄弟と同様に一生交際する習俗があった。乳を与える女性は乳母と呼んで,これとの間柄も真の母子に近いものがあった(乳(ち)つけ)。…
※「乳兄弟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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