予備罪(読み)よびざい(その他表記)Vorbereitungshandlung[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「予備罪」の意味・わかりやすい解説

予備罪 (よびざい)
Vorbereitungshandlung[ドイツ]

ここでいう〈予備〉とは犯罪の準備行為のことであり,犯罪の実行に着手する以前の行為をいう。例えば,殺人の目的で凶器毒物を購入したり,侵入窃盗の目的で侵入先の下見をするなどの行為が予備行為である。もっとも,刑法典においては,既遂処罰原則であり,未遂の処罰は例外的である(〈未遂〉の項参照)。したがって,未遂よりさらに犯罪実現から遠い予備の処罰は,きわめて重大な犯罪について例外的に認められているにすぎない。刑法典上,予備罪が処罰されるのは,内乱予備罪(刑法78条),外患予備罪(88条),私戦予備罪(93条),放火予備罪(113条),通貨偽造予備罪(153条),殺人予備罪(201条),身代金誘拐予備罪(228条ノ3),強盗予備罪(237条)に限定されているが,このほかにも,破壊活動防止法39条,40条,爆発物取締罰則3条等が予備的行為を処罰している。

 予備罪について教唆幇助(ほうじよ)等の共犯が成立しうるかについては争いがある。学説上は,予備罪は基本的構成要件に該当する実行行為ではないという理由でこれを否定する見解が有力であるが,判例は予備罪の共同正犯の成立を認めている。他方,予備罪に刑法43条但書の中止規定が適用可能かも争われている。判例は,予備行為はそれ自体で完了するために中止の観念を認める余地がないとして否定的態度をとっているが,学説では,予備罪の規定のなかには刑の任意的減軽,免除を予定していないものが多いため,実行に着手して中止すれば中止未遂の恩典がうけられることとの不均衡を回避すべきであるとして,予備罪にも中止犯規定の準用を認める立場が有力である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「予備罪」の意味・わかりやすい解説

予備罪
よびざい

特定の犯罪を実行する目的でその準備行為することが犯罪とされる場合をいう。刑法上、既遂犯を原則とし、未遂犯、すなわち犯罪を完成させない場合は例外的に処罰されるにすぎない(刑法44条参照)。しかしとくに重大な犯罪に限り、犯罪の実行に着手する前の準備行為が処罰されることがある。これが予備罪である。現行刑法では、内乱、外患、私戦の三罪のほか、建造物放火、通貨偽造、殺人、身代金誘拐、強盗の五罪につき予備が処罰される。なお、特別法に予備罪を規定する場合がある(破壊活動防止法39条・40条など参照)。

[名和鐵郎]

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